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岩田宏「動物の受難」⇒ビナード訳"Zoo Pogrom"[2020年02月03日(Mon)]


動物の受難  岩田宏


あおぞらのふかいところに
きらきらひかるヒコーキ一機
するとサイレンがウウウウウウ
人はあわててけものをころす
けものにころされないうちに
なさけぶかく用心ぶかく

ちょうど十八年前のはなし

熊がおやつをたべて死ぬ
おやつのなかには硝酸ストリキニーネ
満腹して死ぬ

 さよなら よごれた水と藁束……
 たべて 甘えて とじこめられて
 それがわたしのくらしだった

ライオンが朝ごはんで死ぬ
朝ごはんには硝酸ストリキニーネ
満腹して死ぬ

 さよなら よごれた水と藁束
 たべて 甘えて とじこめられて
 それがわたしのくらしだった

象はなんにもたべなかった
三十日 四十日
はらぺこで死ぬ

 さよなら よごれた水と藁束……

虎は晩めしをたべて死ぬ
晩めしにも硝酸ストリキニーネ
満腹して死ぬ

 さよなら よごれた水と……

ニシキヘビはお夜食で死ぬ
お夜食には硝酸ストリキニーネ
まんぷくして死ぬ

 さよなら よごれた……

ちょうど十八年前のはなし

なさけぶかく用心ぶかく
けものにころされないうちに
人はあわててけものをころす
するとサイレンがウウウウウウ
きらきらひかるヒコーキ一機
あおぞらのふかいところに。
 


岩田宏『頭脳の戦争』(1962)所収。大岡信[編]『ことばの流星群』集英社、2004年より

◆アンソロジー『ことばの流星群』で大岡信は、「感情的な唄」(昨日の記事参照)と「動物の受難」の2編を選んだ。1996年の『現代詩の鑑賞101』(新書館)でも、「動物の受難」を収めている。
岩田宏の代表作の一つということなのだろう。
この詩が書かれたのは1961年という。
その18年前、戦時下の1943年8月16日、大達茂雄東京都長官(都制が敷かれたのは1943年の7月。大達はその初代長官 )から上野動物園の猛獣たちの殺処分命令が出たことをふまえる。
童話「かわいそうなぞう」に描かれた動物たちの受難である。

◆アーサー・ビナードも『日本の名詩、英語でおどる』(みすず書房、2007年)においてこの詩を取り上げている。
ビナードは解説で、当局が9月4日には「慰霊祭」を行い、犠牲になった動物たちを「時局捨身動物」として賛美したこと、すなわち〈動物たちは国民の一層の戦争支持を促すためのプロパガンダにほかならなかった〉ことに注意を促している。
実際、上野動物園には「動物を殺させた米英を討とう」という投書が多数来たという(毎日新聞社『昭和史全記録』p.281)。

◆この詩の力の一つはリズムにあるだろう。
基本は七・七。
たとえば〈人はあわててけものをころす〉。あるいは〈たべて 甘えて とじこめられて〉。
〈さよなら よごれた水と藁束〉も、八・七と読みたくなるので七・七の変奏と言って良い。

七・七は振り子のようにゆるいスイングを繰り返す。
ところがその揺れが突然止められる。
振り子のヒモを「死」がグッと摑むからである。
「満腹して死ぬ」あるいは「はらぺこで死ぬ」のところで読者はつんのめる。
もしくは、足もとの板がガタンと落ちる。
けだるく眠りに誘うような振れがいきなり押さえこまれ、死が襲う、という仕掛けである。

◆詩句の繰り返しにも周到な仕掛けがある。
〈さよなら よごれた〜/たべて 甘えて〜/それがわたしのくらしだった〉は1字下げて動物たちの最後のつぶやきであることを表しているが、腹ぺこで死んだ象はわずか1行つぶやく力しか残されていなかった。
以下、虎、ニシキヘビとつぶやきはさらに短くなって消えてゆく。

◆詩の冒頭の6行が、最終連では頭と尻尾をひっくり返した仕掛けも重要だ。
檻の中の脅威を取り除いたところで、空には別な猛獣がいて、俺らを見下ろし、しかもその風体は我々とそっくりではないか。

◆アーサー・ビナードの英訳、題と第一連を写しておく。

Zoo Pogrom

High in the bowels of the blue sky
An airplane glitters
Air-raid sirens wail Uuuuwoooooo
"The animals might get out ando kill us!"
The people kill the animals first
With caution and sympathy


アーサー・ビナード『日本の名詩、英語でおどる』(みすず書房、2007年)より。

◆詩人岩田宏は本名、小笠原豊樹であることを教えてくれたのはこの本だったか。
エレンブルグやマヤコフスキー、ソルジェニツィンらロシアの詩や小説の翻訳で名をしばしば目にしていた人。

一昨年だったか岩波文庫でフランスの詩人プレヴェールの詩の訳者として再びその名を目にし、このブログでも紹介した。
★「幼年時代」より⇒https://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/926
★「まっすぐな道」⇒https://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/929
★「戦争」⇒https://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/1228

◆ビナードは岩田宏のこの詩の英訳の題として「組織的な大虐殺」という意味でロシア語由来のpogrom("破壊・破滅"が原義)を採った。
最初に彼の翻訳に出会ったのがトルストイの絵本「3びきのくま」だったからだろう、と述懐している。



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