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25年[2020年01月16日(Thu)]

DSCN9139ザッキン「三美神」.JPG
オシップ・ザッキン「三美神」(1953年)。
横浜市関内ホールのエントランスにある。
残念なことに背景が映り込んでスッキリしない。

* * *


三つのイメージ  谷川俊太郎

あなたに
燃えさかる火のイメージを贈る
火は太陽に生まれ
原始の暗闇を照らし
火は長い冬を暖め
祭の夏に燃え
火はあらゆる国々で城を焼き
聖者と泥棒を火あぶりにし
火は平和へのたいまつとなり
戦いへののろしとなり
火は罪をきよめ
罪そのものとなり
火は恐怖であり
希望であり
火は燃えさかり
火は輝く
──あなたに
そのような火のイメージを贈る

あなたに
流れやまぬ水のイメージを贈る
水は葉末(はずえ)の一粒の露に生まれ
きらりと太陽をとらえ
水は死にかけたけものののどをうるおし
魚の卵を抱き
水はせせらぎの歌を歌い
たゆまずに岩をけずり
水は子どもの笹舟を浮かべ
次の瞬間その子を溺れさせ
水は水車をまわしタービンをまわし
あらゆる汚れたものを呑み空を映し
水はみなぎりあふれ
水は岸を破り家々を押し流し
水はのろいであり
めぐみであり
水は流れ
水は深く地に滲みとおる
──あなたに
そのような水のイメージを贈る

あなたに
生きつづける人間のイメージを贈る
人間は宇宙の虚無のただなかに生まれ
限りない謎にとりまかれ
人間は岩に自らの姿を刻み
遠い地平に憧れ
人間は互いに傷つけあい殺しあい
泣きながら美しいものを求め
人間はどんな小さなことにも驚き
すぐに退屈し
人間はつつましい絵を画き
雷のように歌い叫び
人間は一瞬であり
永遠であり
人間は生き
人間は心の奥底で愛しつづける
──あなたに
そのような人間のイメージを贈る

あなたに
火と水と人間の
矛盾にみちた未来のイメージを贈る
あなたに答えは贈らない
あなたに ひとつの問いかけを贈る


*『魂のいちばんおいしいところ』(サンリオ、1990年)所収。
『自選 谷川俊太郎詩集』(岩波文庫、2013年)によった。

◆火も水も地上の生き物に恵みばかりでなく、時にあるいはしばしば災厄をもたらす。
人間もまた、と言いたいものの、人間の方は火や水と違ってこの世にもたらす恵みと言ったら無きに等しく、むしろ収奪と災禍の元締めとして振る舞うばかり。
くわえて気まぐれで泣き虫で飽きっぽく……
取り柄といえば、生きて在る限り美しいものや世界の不思議に胸つぶし、そのことをまた誰かに伝えたくてたまらない生き物らしいということか。

◆阪神淡路大震災から25年。
震災後の数年、被災地の傍らを車で何度か往復しながら、インターを降りる勇気がとうとうなかった。夜、オレンジ色の街路灯が照らし出す高速道路を走りながら、視界の端を次々と後方に去ってゆくフェンスの外には倒壊した家や崩れた山が闇に沈んだままであるのを感じながらハンドルを握っていた。
そうした体験を記憶に格納できないままの人も未だたくさんいるに違いない。



詩のひびき[2020年01月16日(Thu)]

DSCN5157ヒヨドリ.JPG
ヒヨドリ。
河畔の桜の樹を飛び移り、ときに対岸へと飛び去る。
両岸に挟まれた川面にかん高い鳴き声が反響する。

*******


しめやかな潮騒――押韻詩の試み  中村稔

耳底にかすかに鳴っているしめやかな潮騒、
貝殻をひろいながら見遣っていた日没、
突然藍色の波を焦がした黄金の果実、
漆黒の闇深く沈んだ私たちの語らい。

愛といい、正義という、不毛の観念に翻弄され、
誰もたがいに呼びあわず顔をそむけていた。
痛みを分かちあうこともなくただ他人を責めていた、
ひたひたととめどなく押し寄せてる死者の群れ。

暮れかかる砂漠の廃市、汚濁した海、
汲みあげても汲みあげても尽きぬ死者の悲しみ、
きみたち死者の記憶にもあの黄金の果実があるか。

はるかに天をつんざく雷鳴、耳底にはしめやかな潮騒、
内湾に嗚咽してやまぬ死者たちの慷慨。
雷鳴よ、私たちはもっと寛容でありえたか。

            (一九九一年三月)


◆「押韻詩」とあるように、各行の最後の音が韻を踏んでいる。
いわゆる脚韻である。
第1連でいうと、
しおさ
にちぼ
かじ
かたら

下線部が韻。
第2連は「れ/た/た/れ」の音が配され、
第3連は「み/み/か」
そして最終連は「い/い/か」。
母音と子音の配列にも留意していることが分かる。

◆全体では14行、ソネットの形式を踏まえてもいる。
欧米の詩に学んだことを日本語にも生かそうとする試みだが、その中心は朗読することにあるだろう。
音読された声が、聴衆の耳に響き=韻として届き、減衰して行く韻を追いかけるごとく、次の言葉が響いてくる。あるいは無音の「間(ま)」が置かれ、次いでそれを破るように新たな音が生起する――それらの詩は主に屋内で読まれるだろうけれど、詩を朗読しそれを味わう人々とは、実は屋外で聞こえてくる鳥のさえずりや虫の音、風のそよぎの生起、揺れ、交響に親しむことを日常とする人たちではないのか、と、フト思った。

その上でこの詩に耳をそばだててみるならば、「潮騒」「語らい」「ひたひたと」「雷鳴」「(死者たちの)嗚咽」と、おびただしい音たちが鳴りひびいているのだった。

入沢康夫・三木卓・井坂洋子・平出隆 編『詩のレッスン』(小学館、1996年)より。
 



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