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吉岡実「静物」二篇=〈腐爛の時間〉[2019年11月06日(Wed)]

DSCN2043.JPG
先日来、畦に腹這いになっていたサギの姿を二日ほど見ない(これは先週撮ったもの)。
活発に動けるようになったのだと思いたいが、見えなければそれはそれで気になるものだ。

*****


静物  吉岡実

夜の器の硬い面の内で
あざやかさを増してくる
秋のくだもの
りんごや梨やぶどうの類
それぞれは
かさなつたままの姿勢で
眠りへ
ひとつの階調へ
大いなる音楽へと沿うてゆく
めいめいの最も深いところへ至り
核はおもむろによこたわる
そのまわりを
めぐる豊かな腐爛の時間
いま死者の歯のまえで
石のように発しない
それらのくだものの類は
いよいよ重みを加える
深い器のなかで
この夜の仮象の裡で
ときに
大きくかたむく


静物  吉岡実

夜はいつそう遠巻きにする
魚のなかに
仮りに置かれた
骨たちが
星のある海をぬけだし
皿のうえで
ひそかに解体する
灯りは
他の皿へ移る
そこに生の飢餓は享けつがれる
その皿のくぼみに
最初はかげを
次に卵を呼び入れる



『吉岡実詩集』(思潮社、1970年)より。

◆1955年の詩集『静物』の冒頭に同じ題で4編の詩がある、その最初の二つ。
若いころ彫刻家になりたいと考えたこともある人の、超現実主義の絵画のような連作。

◆最初の詩では、まさに静物画の素材としておなじみの果物類が描かれている。現実の絵画と違うのは、描かれることで時間が停止した姿ではなく、静的と見えて実は、内部で進行中の「腐爛」=時間の経過を免れない世界が変容していき、やがて滅びる姿を描いていることだ。

果物たちの色の〈階調〉が音楽の階調へと転じて行くのは、時間の経過を現わしている。
時間なしでは成り立たないのが音楽であるからだ。

時間の経過とともに、果物たちは、〈豊か〉に腐爛してゆき、重みを加えてゆく。
重くなるのは、周囲にあるもろもろを呑み込んでゆくからだ。
りんごや梨は、一般に地球やこの世界の表象として用いられるが、ここでもそう。

時間によって規定されるこの世界の、内部で進行中の腐爛が描かれているのである。

◆2篇目の「静物」の結び3行、〈その皿のくぼみに/最初はかげを/次に卵を呼び入れる〉は、絵筆が動いて画面に陰を描き込み、背景ができたところでヒエロニムス・ボスの絵に登場するような、卵の殻を付けた得体の知れぬものが皿に収まる場面を描く画家の手の動きを見るようだ。

◆1919(大正8)年生まれの吉岡は、1941年8月に満州に出征、輜重(しちょう)兵として転戦した。
敗戦は朝鮮の済州島で迎えたという。



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