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ト・ジョンファン「ノーモアフクシマ」[2019年04月02日(Tue)]

DSCN0445.JPG
木々の花は見上げる我々に見てもらうためであるかのように多く下向きに咲くのに、草花は天にいるものに見てもらおうとするかのように開いた顔を空に向ける。
藤沢市亀井野の野菜畑の一角に咲いていたチューリップ。

*******

ト・ジョンファンの詩集『満ち潮の時間』には、「ノーモアフクシマ」と題する、日本の作家・津島佑子(1947-2016)に捧げた詩が収められている。
湾岸戦争時の自衛隊海外派遣に反対する作家たちの声明に名を連ね、3・11後の人間たちを小説に描き続けた作家とト・ジョンファンの交流がどのようなものであったかは詳らかにしないが、世界ぜんたいに魂のことばを発する作家への敬意と連帯をこめた詩として全体を紹介する。

ノーモアフクシマ(津島佑子さんへ)
             ト・ジョンファン

一日中窓がガタガタと音を立て、夕方にはみぞれまで
降った。
咲いたばかりの山茉英の花が雪に凍えてしまいそうだ。
「偏西風は日本の方に流れるので安心してください」と
伝える気象情報のチャンネルをぷつんと切る。

「ノーモアフクシマ」
あなたはそれを悪夢と言った。悪い夢は忌々しい現実と
なり、恐怖は憤怒に変わったとも言った。町を離れる人々
の群れと残された瓦礫に目を凝らし、あなたは「ノーモ
アフクシマ」に終止符を打つ。ハイパーレスキュー隊の
高山幸夫隊長はいう。何よりも怖いのはどこに危険が潜
んでいるのかわからないことだと。

水が飲めず、ホウンンソウも海産物も食べられなくなっ
た町。それを見ながらあなたが感じたであろう絶望を思
う。二人の若い母親は、自分の体内に取りこまれた放射
能が母乳を飲む赤ん坊のからだに入っていくと思うと怖
くてしかたがないと言った。私たちは沸き立つ活断層の
上で原発のタービンを回していたのだ。ぼろぼろに崩れ
てしまったスリーマイル島とチェルノブイリの間に立っ
ているもの。あれは、いつでも廃墟になりうる文明とい
う顔を持つ、被爆で汚された傲慢である。
いつもは静かなやさしい眼ざしで机の向こうを眺めてい
たあなた。そんなあなたが、悲しみと怒り、憂慮が混ざ
り合った声で原発廃止を訴えるのを聞きながら、曇り空
をそっと見あげる。なだらかなからだを突然垂直に起こ
し、牙をむいて襲ってきた津波が引いていき、再び春が
訪れたら、春の長い陽射しがあなたの庭に長く留まって
いてほしいとねがう。傾いた石灯籠を元に戻し、あなた
が昨年植えた高山植物にも春の花が咲きますように。

「ノーモアフクシマ」 



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ユン・ヨンシュク、田島安江 編訳『満ち潮の時間』(書肆侃侃房、2017年)





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