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首相演説におけるベトナム[2018年10月25日(Thu)]

首相演説になぜベトナムが登場したのか?

◆昨日10月24日の安倍首相所信表明演説を聞いていて、驚いた。
〈外国人材〉について触れたくだりでベトナム人青年のエピソードを引いていたからだ。

半年前に来日されたばかりの、ベトナムのクアン国家主席が先般お亡くなりになられました。心から御冥福をお祈りします。
来日の際訪れた群馬の中小企業では、ベトナム人の青年が、日本人と同じ給料をもらいながら、一緒に働いていた。そのことを、クアン主席はうれしそうに、私に語ってくださいました。
「彼にとって、大きな誇りとなっている」
これは、私たちにとっても誇りであります。世界から尊敬される日本、世界中から優秀な人材が集まる日本を創り上げてまいります。


◆23日の記事で触れたように、文部科学省「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)」で「2018年度EDU-Port公認プロジェクト」に認定された個別枠事業(額は少ないが支援金も出る)の一つ、Z会ホールデングスの「食育・健康教育」事業が、まさにベトナムを対象にした事業であるからだ。

当ブログ記事では、この事業が「日本型のしつけやマナーなどの推進も図る」としている点への懸念を述べた。
〈他国に文化を押しつけて平気な「上から目線」〉であり、こうした「日本型教育の売り込み」が、〈人的資源を確保し日本に呼び込むという未来図〉の下絵として描かれているのではないか、あえて言えば、経済力を背景にした植民地支配の発想があるのではないかと疑っているのだ。

★【10月23日記事「大岡信ことば館」閉館とソロバン】
https://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/1025

◆24日の演説で首相が特定の会社を国会の場で暗に持ち上げたとまで難じるつもりはないが、上の疑念は相当程度に当たっているのではないか、と思いつつある。
そのような視点から上に引用した演説を改めて読めば、ここでも現政府の「上から目線」を感ぜざるを得ない。

〈日本人と同じ給料をもらい、一緒に働くこと〉が誇りなのか?

◆群馬の中小企業に働くベトナム人青年が、〈日本人と同じ給料をもらいながら、一緒に働いていた〉ことを、故クアン・ベトナム国家主席は「彼にとって大きな誇りとなっている」と述べたというのだが、良く考えれば、そのことが青年にとって真の「大きな誇り」であったのだろうか?
演説は、ベトナム人青年が自らの言葉にこめた思いも、それを安倍首相との会談時に紹介したクアン氏の「誇り」も正しく伝え得ていないのではないか?
それどころか、日本のような「先進国」で日本人と同等の待遇を受けることは名誉であるはず、という決めつけに立ってクアン氏のコメントをつまみ食いし、自らの演説に利用しただけなのではないか。

◆安倍首相の演説は、このエピソードの直前でも「日本人と同等の報酬をしっかりと確保します」と、「日本人と同等」を強調していた。

しかし、実際にはその日本人労働者の報酬自体が、限りなく低く押さえ込まれ、経営側にのみ都合の良い非正規労働者が大半になっている中で、「日本人と同等の報酬」が実際には、生活の基盤を支え将来図をしっかり描くに足るものになっていないのが「経済大国日本」の紛れもない現実ではないか。「技能実習生」が安価な外国人労働者の別名に過ぎない問題も今さら指摘するまでもない。

◆事実、今年5月29日のクアン氏の群馬訪問を報じた産経新聞の記事の見出しは次のような、ミもフタもないものだった。

ベトナム人の犯罪や失踪増加…友好へ課題山積 越国家主席が群馬訪問
https://www.sankei.com/politics/news/180530/plt1805300014-n1.html

記事本文も抄録しておく。

増加するベトナム人居住者の中から犯罪者が生まれたり、働きながら学ぶ「技能実習生」が勤務先から失踪したりするケースは日本国内全体で相次いでおり、群馬県も例外ではない。


◆ベトナム人から「犯罪者」が「相次いで」いるかのように読者を誘導する書きぶりである。
もしそうしたケースがあったなら、その理由や背景を、雇用の実態、制度の問題点、関連する課題まで掘り下げて指摘すべきであろうのに、記事は触れていない。
印象操作に余念がないと批判されてもやむをえまい。

◆安倍首相演説の〈外国人材〉のくだりは、我が国の制度の問題点には頬被りしたまま、「経済大国」の傲慢を露呈したものではないか。

◆明治時代日本人がアメリカに移民として大量に進出したのは中国系移民に替わる安価な労働力ととしてであったと聞く。
日系移民の苦難の歴史も忘れたかのように、人不足の分野に安い労働力を、という発想だけなら、かつてのアメリカの移民政策をなぞっているだけだ。

自国民すら格差にあえぐ現状にてこ入れして全体を引き上げようとしないまま、ほころび隠しの労働政策では先が見えている。

「生存権はもとより、政治参加も対等に開かれた社会を目指そう」――そうした発想は芥子粒ほどもないようだ。働く人々に敬意をこめて迎えるのでなければ、結局は道具として人間を酷使することにしかならない。

安倍首相の演説に対して〈憲法ちゃんと勉強し直せ〉という声が議事堂のあちこちから飛んだのは当然だった。



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