捨てられないものたち[2018年07月12日(Thu)]
チャールストンという名の薔薇。
◆昨日に引き続き山下俊子詩集『黄色い傘の中で ホームヘルパーの日々』から――
家 訓 山下 俊子
だめだめ捨ててはだめ
山盛りになったちり紙
まだまだ使えるの
台所の生ごみは捨てないで
植木におくから
濯(すす)げば破れそうな雑巾も使えると
でも
鍋の腐った煮物はだまって捨てた
捨てられない過去を背負って
歩いてきた九十年
捨てられないものたち
ほの暗い鴨居のうえから
夫の
祖父の 祖母の
曾祖父の 曾祖母の
顔がみつめている
命をもった古いものたちに囲まれ
座っているあなた
庭で
開きかけた赤いばらに
跳ねる光がまぶしい
◆時どき、ゴミ屋敷がTVで話題になる。近隣住民のヒンシュクの対象としてである。
「迷惑」を被った側からの取材はあっても、当人の側に立った取り上げ方をすることは稀である。
ヘルパーさんとしてそこに住む人間の傍らで堆積する時間の中に身を置かない限り、庭に咲きかけたバラに目が留まることはない。まして主の中に根を張り枝葉を茂らせ朽ち果てた後に遺すものに思いを遣ることなどない。