谷川俊太郎「黙る」[2026年08月02日(Sun)]
木槿(ムクゲ)。夏の陽ざしに負けずに咲く芙蓉(フヨウ)の仲間はどれも良いけれども、懐かしさを覚えて足を停めたくなる点で、この季節、いちばん好きな花かも知れない。
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黙る 谷川俊太郎
黙るということ
いま黙っているということ
それは多数に耳をかさないこと
口をつぐみながら
つぐむ自分を疑うこと
黙るということ
ひとり黙っているということ
草木を味方にするということ
曇り空の下の小石とともに
世界の饒舌(じょうぜつ)に耐えること
黙るということ
日々の暮らしの一々を
言挙げしないこと
心だけでなく体ぐるみ
明日を信ずること
黙るということ
内なる騒音を鎮め
沈黙を金にする錬金術を
先賢の言葉に学ぶこと
宇宙の沈黙にたじろがぬこと
『今日は昨日のつづき どこからか言葉が』(朝日新聞出版、2025年)より
※初出2021年9月1日朝日新聞
◆TVは画像と音がないと寸刻も存在価値を維持できない、と作り手たちは思い込んでいるのか、ひたすら饒舌だ。
風景だけを延々と映し出している深夜の番組でさえ、BGMを、静かだが絶対に途切れることなく流し続けている。
逆に無音ボタンを押したわけではないのに、映像だけで全く音が聞こえてこないとか、その反対に、音は聞こえているのに画面は真っ黒のままだったり、ごま塩模様が明滅するだけのいわゆる「砂嵐」状態だったりしたら、それは恐怖を覚えさせるだろう。
何か異常な状態になっていると判断せざるを得ないからだ。平時に培われた「ふつうの状態」を参照して、そう感じてしまうだけなのだろうけれど。
◆この詩で「黙る」ことにいざなわれてみると、人がいかに饒舌にしゃべる生き物であったか思い知る。
そうして「沈黙」がいかに豊饒深遠か思って粛然となる。



