谷川俊太郎「ありがとう」…珠洲に寄せて[2026年06月11日(Thu)]
ありがとう 谷川俊太郎
中学の国語の先生は
夏はいつもタンクトップで
こんな詩を板書した
あっというまにありがきた
りすがこっちをむいている
がいこつさんはつちのなか
とりたちみんなそらのうえ
うそはほんとのこどもです
この詩は何を言おうとしてると思う?
ハスキーボイスで質問されたが
誰もアクロステックを知らなかった
『詩人S』(集英社、2026年)より
初出は『SWITCH』2015年3月号(スイッチ・パブリッシング)
◆アクロスティック、各行の頭などに特定の文字を並べて単語やメッセージを盛り込んだ言葉遊び。ここでは2連目に紹介された中学の国語の先生による七五×5行の詩だ。「ありがとう」のメッセージがこめられている。
脳みそが固まり始める年頃の子どもたちは、言葉で遊んでいいんだ、と知って、教室を涼しい風が吹き抜ける思いがしたに違いない。
◆日本の和歌では折句と呼ばれる言葉遊びが伊勢物語の昔から知られている。五七五七七の頭に置かれた文字をつなげて、ある単語が浮かび上がるようにする。
高校生にはもう少し難しくてもいいかと、和歌の各句の頭だけでなく、終わりの各一字も動員する沓冠(くつかむり)というものに挑戦してもらったことがある。
自分のフルネームをちりばめることを条件とした。
上下10か所を姓と名で埋めるには短い名前の人も長い名前の人もいるので、字余り・字足らずは大目に見て、「てにをは」や接辞を援用し、清音は濁音と通用するようにするなど、うまく意味を保ちながら名前が収まるよう助け舟も出した。
◆中に忘れがたい名歌があったのを今に忘れない。
初句が「ふるさとすず」と始まる歌であった。
初めて聞く町の名、漢字では「珠洲」と書くと教わった。以来、この美しい名は、そのゆかしさゆえに一度訪れてみたい町として心に刻まれた。
ところが一昨年初の能登半島大震災である。この町の様子がTVで伝えられることも少なくない。しかし、風光や人々の姿は、わが心に育ったイメージを少しも裏切ることがない。
被害の大きさにくじけることのないしなやかな姿として映るのだ。
「ふるさとすず」と歌ったFさんに感謝しつつ、いつの日か訪れてみたいという気持ちはつのる。歌のことばの力がそれを支える。



