池井昌樹「春野」[2026年04月09日(Thu)]
春野 池井昌樹
こまぎれのスキヤキかこんで
みんないっしょにテレビみて
ひをけしてねた
よるおそく
なごりおしくて
ひとこえおいとよびかければ
ややあって
あちらこちらでこたえがある
ねむそうなこえ
またそうでもないこえがする
いいもんだなあ
あなたこなたで
萌芽する
なもないのばな
はるののようにあかるいよふけを
ゆくもの
くるもの
ひとつやみのなか
三木卓・編『詩の玉手箱』(いそっぷ社、2008年)より
◆これでもめいっぱいのぜいたくをした夕餉。
鍋をかこんだ家族の息が湯気にまざり、湯気の向こうに互いののどの動きまで見えているような家族の姿に引き込まれる。
布団に入ってからもみんなの顔が閉じた目に浮かぶ。
それを見守るようにあちこちに顔を出す野の花たち。
いつしか、人間も草花も虫もけものも区別不要の世界になっていく。
石器時代だ、文明だと口角泡を飛ばす貧しき人たちはどこかへ消えている。



