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網谷厚子「天空マリーナ」[2026年02月06日(Fri)]

◆グランドで学生たちが久しぶりの汗を流していた。
思わずつぶやく――選挙行ったかな?

地方区と比例、2票あるわけだ。
西部劇の二挺拳銃とはいかないにしても、サッ、シュッと投じてフッと小さく息を吐き、
立会人にスッと黙礼して投票所をあとにする――そんな青年ばかりに見えたのだが。
(――あ、最高裁判事の一票もあったか)


*******


天空マリーナ   網谷厚子


青く輝く地球を離れて あなたは たった一人で 飛び立っていきたかった 宇宙まで行きたかった そこには何があるのか その遙か彼方は 学問を学び始めたばかりの青二才で 残虐な侵略戦争にかり出され 闘いの道具として 厳しい訓練を受けた 震えが止まらない 死がすぐそばにあること 死ぬとわかっているなら 一瞬で この小さな命を終わらせること 苦痛のない死だけが 唯一の希望となる 時折温かいものが 前触れもなく全身を巡っていく あのとき 純白のマフラーを 戦隊ヒーローのようになびかせ 出撃した朝 握った操縦桿を高く引き上げた たくさんの同胞と飛び立った空はどこまでも明るく 青く 温かく 二度と戻ることはないなど とても思えなかった 軽いフライトを終えて ブランチの紅茶がテラスで待っているかのような 戦がこれで終わるなら 何かを守ることができたなら 敵 と呼ばれた者同士が 殺し合うのは 仕方がないと思った 戦は負けた者が すべての罪を償わされる 勝った者が正しく 負けた者が間違っていたことになる 理不尽が 正当な主張に変わる そんな歴史を 何千年も見てきた人類 あなたは 万歳で送られた 髪を坊主にして この世を捨てて あの世へと脚を踏み入れた 兵士となったからには死ぬのは本望 あなたは空の彼方の雲に ゼロ戦を駐めて見るだろう 武器を持たない人々が機銃掃射で撃たれるのを ポンポン飛んでくるミサイルに 粉々に砕かれるのを 美しい町並み 何百年も磨き抜かれた文化財が 一瞬で埃を上げて瓦礫となるのを 無人爆撃機が 目標物に命中するのを ゲームのように驚きながら嘆きながら見ている お茶の間の人々 日本人 他国の戦の理由も知らずに 武器やお金をつぎ込む 援助という美談 いつまでも幕が降りない 殺戮劇場 戦を知っている人も 知らない人も 新しい戦に興奮している やがて 自分が武器を持つか 核爆弾の犠牲に またなるかも知れないのに あなたは 終戦が一時の虚ろにすぎなかったことを知るだろう 眼を閉じて あなたのゼロ戦が 空の彼方で 一筋の青い光となって 消えた


  『ひめ日和』(思潮社、2024年)より


◆どこまでも青い空と白いマフラーとで描く青春。



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