文月悠光「この地の傷口を……」[2025年12月14日(Sun)]
この地の傷口を…… 文月悠光
この地の傷口をいたわるように
風はなぞる。
そこに刻まれた
土地の履歴をたどっていく。
その書き出しは、わたしの名前。
『パラレルワールドのようなもの』(思潮社、2022年)より
◆「波音はどこから」と題する四篇の連作の冒頭に置かれた序詩。
地震が続く日本海溝付近、それが地球の傷口であるなら、海の底にも海上をわたる風の息吹は届いていよう。
同様に、わたしのからだの奥深くの傷口をやわらかくなぞるように、わたしのまわりの風たちも、波打ち、揺れて我が身を護るようにまつわり、そうして時には辻風みたいに髪をなぶり、かと思うと、戯れだよ、と言いたげに頰をなでるだろう。



