文月悠光「目覚め」[2025年12月13日(Sat)]
目覚め 文月悠光(ふづき ゆみ)
飛び火して発熱する朝だ
カーテンのたもとから
陽光が細くこぼれ、
塵が光っては影にとける。
まだ開ききらないまぶたを
じっと持ち上げてみるけれど
光が塵を降らせるというのは
確かなようだ。
その光景は、私の頭の中で
小魚の旋回、
波間へ投げ出される鱗の一片、
おお海!
『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社、2009年)より
◆朝、こんなふうに目覚めたことが、うんと若い頃自分もあった(はず)、と時々思い出しておくことが、生きるためには必要だ(男・女に関係なく)。
それはさておき、この詩の「私」の中には、太宰治の『魚服記』の娘・スワがあざやかに息づいていると思えてならない。(もう一つ『女学生』の主人公もだが。)
いま『魚服記』を読み返すと、十五歳という設定であったことに驚く。もう少し(と言っても一つか二つだが)幼いような印象があったからだ。
物語の悲しむべき結末と対照的に、少女がメルヘンの世界の人で、それを貫くために変身を遂げるしかなかったのだった。



