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須江太郎クリスマス・リサイタル[2025年12月06日(Sat)]

20251204スタインウェイ「ローズウッド」at須江太郎クリスマスコンサート.jpg

◆12月4日、須江太郎クリスマス・リサイタルを聴いた(鎌倉芸術館)。
上の写真は、その折りに弾いたニューヨーク・スタンウェイ。
ローズウッドという名を持つ1887年製の名器である。

演奏会プログラムにその来歴が詳しく記されていた。
それによれば、スタインウェイ社は1883年に現在のピアノの基本となるNewscaleDを発表、この「ローズウッド」はその百台目となるピアノで、1925頃まではカーネギーホールなどに貸し出されていたものが、1970年代中頃に日本に送られてキャピタル東急ホテルに置かれていた由。
かのホロヴィッツが1986年の2度目の来日時にこのピアノを弾いて絶賛したというエピソードは有名だ。

このホロヴィッツ再来日は、1983年の初来日で吉田秀和氏に「ヒビの入った骨董」と厳しい評を下されたことが頭を離れなかったのだろう、3年後、モスクワでの里帰り公演とベルリンでの演奏会の後に急遽日本での再公演を実現させ、前回へのリベンジを果たしたことでも話題になった。
1986年はホロヴィッツも83歳、巨匠とうたわれた音楽家の、聴衆の期待を裏切ったままでは済まさない執念すらを感じさせた。

***

◆さて、この愛称「ローズウッド」、名の通り赤味を帯びたとても美しいピアノだ。

この夜、ピアニストは、ランプに揺れる豊潤な美酒から窓の外に降り積む真っ白な雪まで、色彩と体温のこもった音の世界をプレゼントしてくれた。

◆前半の中心はショパンエチュード(作品番号10の全12曲)。
それぞれ個性の異なる曲を、一夜の演奏会で全体として貫流するものが伝わるように演奏するのは、実際はとても難しいことのように思うのだが、この夜の演奏で感じたのは、一つ一つが語りかけて来る物語にようく耳を澄ませ、誠実に向き合って音を紡ぐ時、そこには作曲者とピアニストの個性という限定的な小世界でなく、その曲を弾いてきたであろう幾人もの人たちの様々な声が幾層にも重なって聞こえるということだ。

140年近くも弾かれ続けて来たピアノで演奏するから、という単純な話ではない。
いくら名器であれ、その音に耳をかたむける生身の人間が魂をこめて音楽にしない限り聴き手には何も伝わらない。そのことが念頭にあってだろう、プログラムにはエチュード第1番「旅立ち」から最後の第12番「決意」まで、須江太郎自身がイメージしたタイトルがそれぞれ添えられていた。
(第4番だけは空白で、これは聴く者にプレゼントされた「宿題」というわけだろう。)

そうして、エチュード全12曲を聴き終えて静かさに身をゆだねていると、一曲一曲が大きな物語の河を流れ下る舟たちであったように思えてくる。
よく歌う音楽家は、よい耳を持つことが必要だと思うけれど、それは他の存在が語ることば・うたを誰よりもよく聴き取るために必要なことだった、とこの日の演奏で教わった。

◆この日の後半は、クリスマスの季節にちなんだ曲が並んだ。
ドビュッシー「雪が躍っている」(『こどもの領分』より)を生で聴くのはたぶん初めて。CDではホロヴィッツの小品集で聴いたのだったか。

プログラムの結びに演奏されたのはバッハ/ブゾーニ編「シャコンヌ」(無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番の終曲)。
オリジナルのヴァイオリン・ソロでも、ブゾーニ編曲のピアノ版でもよく聴いてきた一曲。だがこれまでのどの演奏とも全く違っていた。

おそらくソナタ一曲を弾くぐらいの集中力を要する音の絵巻物が繰り広げられていくあいだ、さまざまな存在たちの声やうたが複層的に重なったり語り合ったり(時に干渉し合ったり渡り合ったり)して聞こえてきた。
そこには、作曲者のバッハや編曲のブゾーニだけでなく、原曲を弾いたヴァイオリニストたちや、前半のショパンの時と同様にこのピアノ「ローズウッド」を弾いたピアニストたちの歌や対話も融け合っているように思われた。今まで聴いた「シャコンヌ」のどれとも違っていたのはそのためだろう。
ピアノ「ローズレッド」自体が持つ、倍音を含む豊かな音の貢献もあるだろうが、それを引き出して歌わせるのはピアニストの魂なのだということをつくづく感じた体験だった。

★アンコールの2曲目、シューマン/リスト編「献呈」が演奏されて驚いた。その前日、オリジナルの歌曲で聴いて印象に刻まれたばかりだったからだ。
歌曲もピアノ編曲版も、シューベルト「アヴェ・マリア」が繰り返されて静かに終わる。
愛と祈りを込めた、またとないクリスマス・プレゼントを贈っていただいた。

★須江太郎クリスマス・リサイタル、12月16日はサントリーホールのブルーローズで開かれる。
ぜひ一聴を。

須江太郎クリスマスリサイタル2025A.jpg







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