鶴見俊輔「この時」[2025年10月15日(Wed)]
この時 鶴見俊輔
宇宙の底に
しずかにすわって
いると思う時がある
この自分が まぼろし
私の眼にうつる人も
ここにいる時はみじかく
いない時の中に
この時が 浮かぶ
池澤夏樹 編『日本文学全集29』(河出書房新社、2016年)より
◆「宇宙の底」にすわっている、という認識に感銘を覚える。
宇宙の辺境ではない。まして中心ではない。
上から大きな眼に観察されているかも知れない。だが卑屈におもねることも、斜に構えて虚勢を張ることもない。「しずかにすわって」いるのである。
そうして自分を「まぼろし」と観じている。
そのようなものとして時間の上に存在していると認識しているのである。
いずれその「宇宙の底」から姿を消す。自分も、自分が見ている人間も。
透徹していて潔い。



