
大岡信の「折々の歌」巻頭歌二首[2025年05月14日(Wed)]
◆先日の大岡信展、朝日新聞朝刊に連載されて世界を驚かせた「折々のうた」のコーナーも興味深いものだった。
その第一回(1979年1月25日)に取り上げたのは高村光太郎の次の歌だった。
海にして太古の民のおどろきをわれふたたびすおほ空のもと
これに付した大岡の文章――
この歌は美校生だった彼が、明治三十九年二月、彫刻修行のため渡米したとき、船中で作ったもの。「洋行」は当時男子一生の大事業というべきものに近かった。高村青年は緊張もしていただろう。けれど歌は悠揚のおもむきをたたえ、愛誦するにふさわしい。(抜粋)
翌年には岩波新書(黄版)から一年分をまとめて『折々のうた』(第一集)が出版されたが、そこでは四季の順に〈春のうた〉から配列したために、巻頭に置かれたのは次の歌だった。
石(いは)ばしる垂水(たるみ)の上のさ蕨(わらび)の萌(も)え出づる春になりにけるかも 志貴皇子
清冽な水音、目にしみるような早蕨の色――それら異なる感覚を同時に刺激して交響する世界がそこにある。
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文学館の帰りに出会った日本産のバラ、ヒーリングという。
雨に濡れた花の姿が美しい。