
まど・みちお「せんねん まんねん」[2025年04月26日(Sat)]
ミズキの花が顔を出していた。
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せんねん まんねん まど・みちお
いつかのっぽのヤシの木になるために
そのヤシのみが地べたに落ちる
その地ひびきでミミズがとびだす
そのミミズをヘビがのむ
そのヘビをワニがのむ
そのワニを川がのむ
その川の岸ののっぽのヤシの木の中を
昇っていくのは
今まで土の中でうたっていた清水
その清水は昇って昇って昇りつめて
ヤシのみの中で眠る
その眠りが夢でいっぱいになると
いつかのっぽのヤシの木になるために
そのヤシのみが地べたに落ちる
その地ひびきでミミズがとびだす
そのミミズをヘビがのむ
そのヘビをワニがのむ
そのワニを川がのむ
その川の岸に
まだ人がやって来なかったころの
はるなつあきふゆ はるなつあきふゆの
ながいみじかい せんねんまんねん
伊藤英治・編『まど・みちお全詩集』(理論社、1994年)より
◆円環をなす命のいとなみと時間のめぐり。
人間はそれを切り刻んだり捻じ曲げることが好きだ、というより、それを業病のようにして棲息している。
救いようがない。