
まど・みちお「いす」[2025年04月24日(Thu)]
いす まど・みちお
ここに くると
どんな人でも からだを折曲げます
やれやれと
いそいそと
どっかりと
いぎたなく
とくいげに
われさきに
しょんぼりと
なにげなく
せかいじゅうに ないそうです
こんなに よく守られる きそくは
そして
こんなに おもしろい けしきに
目を みはる人も
伊藤英治・編『まど・みちお全詩集』(理論社、1994年)より
◆椅子に座る時の体の使い方は誰も同じなのに、座った姿がこんなにもさまざまな印象を生むとは思いもしなかった。
こう表現されてみれば、居住まいを正して咳払いしたくなるというものだ。
思いもしなかったことをズバリ言われると、やっぱり人間は弱い。
卑しい人品をさらけ出したのでは、と気になるのだ。
◆そう言えば、黒澤明の名作『生きる』、役所の椅子、通夜に参列した人々の座布団……場面ごとに登場人物たちが腰を下ろすものも様々に描き分けられていた。
最後は主人公が漕ぐ公園のブランコの椅子――受け継がれる座だ。