
山中孝子「カラス」[2025年04月17日(Thu)]
ノヂシャ(野萵苣)。小さく白い花をつけて可憐だ。
花は漏斗状のものが五つに分裂しているらしいが、肉眼ではよく分からない。
天道虫ぐらいの大きさになれば見えるのだろうけれど。
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カラス 山中孝子
視界の隅で何かが動いた
少し先の屋根の一角
黒い瓦(かわら)のようなものが
ふいにめくれあがって
バタバタと路上に落下した
カラスだ
大きなカラスだ
あそこで
雨どいの水でも飲んでいたのか
わずかな餌にでもありついていたのか
瞬時に方向を定め舞い上がると
もはや寸分の迷いもなく
大空を一直線に流れ
みるみる遠くなっていく
カラスよ
おまえのあの唐突な羽ばたきの
余韻は
まだこの路上にあるのに
山中孝子詩集『海からとどく子守歌』(花神社、2007年)より
◆不意の動きが視界を揺らしたとき、目よりも心持ちの方がしばらく揺さぶられたままでいることがある。
賢いカラスは4日間ほどの記憶力があるというから、その突然の落下も、その直後の浮上と彼方への飛翔も、企んだ演出かもしれない。
親しみ込めたあいさつ代わりか、それともただの気まぐれか、分からないけれども。