
佐藤惣之助「犯罪地帯」[2025年04月12日(Sat)]

ヘラオオバコ。
真上から見下ろすと、下のような異空間からの使者の目玉のような。

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犯罪地帯 佐藤惣之助
るるるると、ひとつの眼が想像され
あかるい丘の地平に
みらみらとひとつの木がもえ
きいろい花がきらきら
そのひとつの眼に葉がかかり
ほうとして
はるかな海港のけむりがのぼると
さらにひとりの男がとほり
男はうすうすと犬のやうに消えてゆき
又もひとつの眼が想像され
その眼のまつ毛のさきに
ひるがほが、るるるるとふるへ
その眼も同じやうに、るるるるとふるへ。
大岡信・谷川俊太郎 編『声でたのしむ 美しい日本の詩』(岩波文庫、2020年)
◆佐藤惣之助は「赤木の子守唄」など多くの作詞で知られる。調べたら「阪神タイガース」の応援歌、いわゆる「六甲颪」や「湖畔の宿」、わが幼年時代からの祖母の愛誦歌にしてわが青春時代の愛奏&愛誦の歌となった「人生劇場」もまた同じ詩人の作だった。
◆「みらみら」「きらきら」と多用されるオノマトペの中でも「るるるる」は冒頭および終末部に三度登場して基音を成す。
音として響き続けているのと同じくらい視覚の上でも「るるるる」は回転しながら目の前を動いて止まない。「る」の字自体が眼の形と重なるばかりか、くるくるネズミ花火のように回りながら、それを見ようとする読者を眩惑し続けるのだ。