
田中茂二郎「パレスチナの小鳥」[2025年01月16日(Thu)]
◆ガザ停戦合意、というのに、その直後にイスラエルによる攻撃で71名死亡との報。
いったい何なのだ。
たなか もじろう
パレスチナの小鳥 田中茂二郎
そよ風に揺り籠がゆれている
赤ん坊が眠っている
ゆらゆらと秋の陽射しを受けてゆれている
カナリアの鳥籠も微かにゆれている
ママは赤ん坊をみてから炊事場へ
ラジオは甘いイスラム歌謡を流している
隣のおばあちゃんがトマトを置いとくよとこえをかけていった いつもどうも!
一瞬のことだった
空から異音がしたとたん 建物を爆風が突きぬけた
揺り籠ははげしくゆさぶられて
赤ん坊を包んだまま床に叩きつけられた
赤ん坊は苦しまなかった
ママも苦しまなかった
カナリアも苦しまなかった
揺り籠はそのままママと一緒に空地に埋められた
全パレスチナの小鳥たちが啼きやんでいた
『詩と思想 詩人集2024』(土曜美術社出版販売、2024年)より
◆人間ばかりか鳥獣もこぞって慟哭したという涅槃図すら世にあるのに、小鳥たちがみな啼きやむ。
「苦しまなかった」の後に大きな疑問符を付けて読むほかない詩。だがかすれ声さえ出ない。