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秋山洋一「ナターシャ」[2024年10月30日(Wed)]


ナターシャ    秋山洋一

丘には轟く砲声
下界にはかすかな寝息のようなもの
その狭間の切り窓の下
暗がりに生まれたカマドウマなら
また暗がりへ跳ぶだけだ
鎌をかざして生まれたなら
長衣のかまきりに扮し
三角頭を傾げていればいい

ここは墓苑というところ
高きに舞って
後知れぬ者なら
最期の蝉とも名なしとも
水に沈んだポスターの笑顔が
ときどきは吠声あげる
それが目ざめということか
十字架に寄りそう菩薩像
その妙法の墓石の上のツクボウシ

たくさん殺せば褒められた
逃げて帰れば殺された
死者のことは死者に訊くほかなく
溢れるほどに澄んだ空
何がいいのか わるいのか
空はただ頷くだけだから
町はずれから来て暗がりにいる
無口な虫売りでいるだけだ

見渡すかぎり
数えきれない人の道は尽きていて
これより先は知らぬ道
霊魂は不滅と
遠い寒空の下の金髪の少女の
大きな声に励まされ
仰臥するとき地べた見る


  『第二章』(七月堂、2023年)より

◆ウクライナ戦争を思わせる一篇。
だがここで兵として戦っているのは、虫たちみたいな感じもある。
人間が大真面目に命を賭けているのだとしても、少し距離を置いて見れば、人の道が途切れた地点にまで追い詰められ、実は虫けら同然の境涯に身を落としている。そうしてそのことが分からない。

どうしようもなく愚かな生き物、それは人間だと。




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