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根来眞知子「地球儀」[2024年09月30日(Mon)]


地球儀  根来眞知子


本棚の上に今もある地球儀
ソビエト連邦がでんとかまえている古いもの
もういらないから捨てようか
ロシアなのだ 今は

何年前だったかフランスへのフライト
関空を発った飛行機は
日本海を越えユーラシア大陸へ
まさしくソビエト連邦の上を飛んだ
「ただいま偏西風が強く飛行機は通常より
北のルートを取っています」と機長の説明
窓からのぞくと陸と海との境界線がくっきり
十二月の大陸も海も凍てついていた

「親父はこの地に抑留されていたんですよ」
一緒に見下ろしていた人がつぶやいた
「戦後も永く消息が分からなかったのですが
引き揚げ船で帰ってきて安堵したものの
身も心もボロボロでほどなく亡くなりました
ウラル山脈を越えたこともあったらしいけれど
この凍てついた大地のどこにいたのか
どんな過酷な労働をさせられたのか
多くは語らなかったんです」

やがて夜
機内の多くの人は眠りについた
フランスは遠い
私も寝るべく席に戻った

本棚の上に今もある地球儀
まあ おいておくか
国の呼び名が変わろうと
政権が変わろうと
地球の海も陸も変わりなく
その回転は続く

回転する地球の上で
人々の争いは絶えない
今世紀も狂気は続くのか


根来眞知子詩集『雨を見ている』(澪標、2019年)より


梯久美子『戦争ミュージアム』(岩波新書、2024年7月発行)には舞鶴引揚記念館も登場する(同書167ページ〜)。

その冒頭に、記念館のエントランス、床いっぱいに描かれたユーラシア大陸の地図が出てくる。
「シベリア抑留」と一括りにして言われる。しかしその地図には、抑留者が送られた収容所が、ウズベキスタンやカザフスタンなどの中央アジア、黒海に近いウクライナやジョージアにもあったことが丸印で示されている。ロシアのウクライナ侵攻でたびたび報じられたオデーサ近くにも大きな収容所があり、2万人以上が収容されていたという。

◆根来眞知子のこの詩において、飛行機から旧ソ連の凍てついた大地を見下ろした人の父親も、その地図上のどこかに収容され、ボロボロになって引き揚げた人間の一人。

◆チャップリン扮する独裁者は大きな地球儀を弄んで見せたが、日本政府の首相官邸のサイトには「地球儀を俯瞰する外交」というアベ氏の遺物が今も載せてある。
その地球儀は、パソコンのマウスで好きなように回転させ、アベ氏が飛び回った飛行機の軌跡をたどれる仕掛けになっているから恐れ入る。

◆詩における「私」が地球儀を捨てられないのは、その上を足を引きずりながら歩んだ兵や老若男女の蟻のような姿を想像せずにいられないからだ。
他方、己のコウセキ(航跡="功績")を地球儀上に動かして悦に入る人間の目に、そのアリンコたちの姿は見えていただろうか?――答えは明らかだ。
官邸サイトの地球儀こそは、サッサと処分するが良い。官邸の次の住人として、アベ政治の退場を宣するためにも。

★首相官邸のHP【地球儀を俯瞰しながら体験できる外交の軌跡】
https://www.kantei.go.jp/jp/feature/gaikou/index.html








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