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ネモフィラの青――宮澤賢治「暁穹への嫉妬」[2024年04月21日(Sun)]

DSCN0778ネモフィラ.JPG

ネモフィラという花のようだ。和名は瑠璃唐草。
鮮やかな青い花たちに混じって、白いのがさり気なくアピールしているのが微笑ましい。
境川遊水池公園のビジターセンターにて。

DSCN0780.JPG

一面に咲く花をみつめていると、幻想世界に身を置いているような気がしてくる。
この花は、明け方の光の中ではどんな風に見えるのだろう。

そんな想像に誘う賢治の詩を、『春と修羅 第二集』から――


ぎょうきゅう
暁穹への嫉妬  宮澤賢治
          一九二五、一、六


薔薇輝石や雪のエッセンスを集めて、
ひかりけだかくかゞやきながら
その清麗なサファイア風の惑星を
溶かさうとするあけがたのそら
さっきはみちは渚をつたひ
波もねむたくゆれてゐたとき
星はあやしく澄みわたり
過冷な天の水そこで
青い合図
(wink)をいくたびいくつも投げてゐた
それなのにいま
(ところがあいつはまん円なもんで
リングもあれば月も七っつもってゐる
第一あんなもの生きてもゐないし
まあ行って見ろごそごそだぞ)と
草刈が云ったとしても
ぼくがあいつを恋するために
このうつくしいあけぞらを
変な顔して 見てゐることは変らない
変らないどこかそんなことなど云はれると
いよいよぼくはどうしていゝかわからなくなる
……雪をかぶったはひびゃくしんと
  百の岬がいま明ける
  万葉風の青海原よ……
滅びる鳥の種族のやうに
星はもいちどひるがへる


『校本 宮澤賢治全集』第二巻(筑摩書房、1975年)より

【語注】*原子朗『新 宮澤賢治語彙辞典』(東京書籍、1999年)、林弥栄・編『日本の樹木』(山と溪谷社、1985年)等に拠った。

暁穹…明け方の大空
薔薇輝石…ロードナイト、ロード石と呼ばれるバラ色の準輝石
過冷…過冷却。水をゆっくり冷却した場合など、液体を凝固点以下に冷却しても、凝固しないで液体のまま存在すること。
ところがあいつは〜…「リングもあれば月も七っつもって」とあるので、土星を指すか。
はひびゃくしん…ハイビャクシン(這柏槙)。常緑低木で、枝は地を這って横に広がる。別名、ソナレ、イワダレネズ。


◆寒い明け方まで「星」を仰ぎ見ているのは大失恋ゆえ。
夜明けとともに光を失い姿を消して行こうとしている星は、思う人が遠くへ去ろうとしていることに重ねているのだろう。

***

★この詩はのちに文語詩として改作されている(未定稿)。
こちらも全文を掲げておく。


敗れし少年の歌へる  宮澤賢治


ひかりわななくあけぞらに
清麗サフィアのさまなして
きみにたぐへるかの惑星(ほし)
いま融け行くぞかなしけれ

雪をかぶれるびくしんや
百の海岬いま明けて
あをうなばらは万葉の
古きしらべにひかれるを

夜はあやしき積雲の
なかより生れてかの星ぞ
さながらきみのことばもて
われをこととひ燃えけるを

よきロダイトのさまなして
ひかりわなゝくかのそらに
溶け行くとしてひるがへる
きみが星こそかなしけれ


『校本 宮澤賢治全集 第五巻』(筑摩書房、1974年)より




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