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井手則雄「鳥」[2024年03月29日(Fri)]


鳥   井手則雄

風よささむけて鳴れ
この断崖を駈けおりるときに
しかもなお
心を痛ませるまばゆい黄昏
むらさきの額 雨の石廊 鞭の鳴る孤独

永いことだつたな西方への逃亡は
わしら亡命者が漸くに辿りついた
故郷の断崖で路は杜切れる
路は中空につづき天の肩にとどいているか

お前 鳥ならば そこをかけよ

見はるかす幻覚
色錆びた無為の夕もや
耕地に農夫の祈り痩せて
アンヂェラスは待てど響かず
帰りつく千尺の落盤の下に
潰れはてようとする屋根 屋根
この荒凉はいつおわるのか
更にもえるか怒りの太陽は

いまは断崖の勾配に映える
血ぬられた歌を残して
帰郷を祝う歌とてはなく
解放の時より前に鐘は鳴るまい

お前 鳥ならば 此処ををかけよ



木島始・編『列島詩人集』(土曜美術社出版販売、1997年)より。

◆詩人・彫刻家の井手則雄(1916-1986)は長崎県に生まれた。

1986年1月、滞在中であった福島県双葉郡富岡町小浜の海岸で不慮の事故のために死去したという。その縁でと思うが富岡町の図書館には井手の作品や寄贈図書による文庫があるそうだ。

以上は、下記サイトに拠った。
「井手則雄 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)
https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/9929.html
(閲覧日 2024-03-29)
いわきアリオス(いわき芸術文化交流館)のブログの20年3月18日記事、特集「地域に根差す若き演劇人の芽」ー『うつほの襞/漂流の景』ツアーレポートー(「エンゲキ☆アリペ」第24号)
https://iwaki-alios.jp/cd/app/?C=blog&H=default&D=02279


◆この詩の「アンヂェラス(の鐘)」「千尺の落盤」「怒りの太陽」は、ナガサキの頭上に炸裂した原爆を表しているだろう。
*アンジェラスの鐘……浦上天主堂の鐘。「アンジェラス」は聖母マリアの受胎告知を記念する祈りのこと。

◆一方、奇しくも、詩人ゆかりの福島県富岡町は、フクイチの原発過酷事故によって、町の面積の約7%にあたる460ヘクタールが帰還困難区域に指定されて来た。
この内、220haはこの2月に「特定帰還居住区域」と指定され、帰宅可能となったというが、帰宅の意向を示しているのは244世帯のうち、92世帯にとどまるという。まさに「帰郷を祝う歌とてはなく」の状況といわざるを得ない。  
NHK 福島NEWS WEB 2024/2/16記事〈 富岡町の帰還困難区域の一部「特定帰還居住区域」に認定〉

◆断崖が帰還を阻み、故郷への路は途切れているように見えても、あるいは朽ち果てようとする家々は絶望しか感じさせないとしても、怒りの太陽に身を投じることこそむしろ本懐、と言わんばかりに、帰心は鳥のごとく天翔けよと願う。



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