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もの言う自由――小熊秀雄「馬の胴体の中で考へてゐたい」[2024年02月24日(Sat)]

◆ロシアのウクライナ侵略から2年、新聞もTVも長期化必至の見通しを語らざるを得ぬまま、個々の市民の声をレポートすることに比重を移し始めた。

一方でガザの今を伝える粘り強さを失っている印象も受ける。
取材対象が限られるなら、いよいよ伝える側の共感力と共感力が試されてもいるわけだ。

◆日本で言論封じが横行した時代もそんな昔ではない。
下の小熊秀雄の詩は1940年に編まれたが、詩集『流民詩集』として実際に刊行できたのは戦後の1947年。詩人自身は1940年11月に病気で亡くなった。



馬の胴体の中で考へてゐたい   小熊秀雄


おゝ私のふるさとの馬よ
お前の傍のゆりかごの中で
私は言葉を覚えた
すべての村民と同じだけの言葉を
村をでてきて、私は詩人になつた
ところで言葉が、たくさん必要となつた
人民の言ひ現はせない
言葉をたくさん、たくさん知つて
人民の意志の代弁者たらんとした
のろのろとした戦車のやうな言葉から
すばらしい稲妻のやうな言葉まで
言葉の自由は私のものだ
誰の所有
(もの)でもない
突然大泥棒奴に、
――静かにしろ
声を立てるな――
と私は鼻先に短刀をつきつけられた、
かつてあのやうに強く語つた私が
勇敢と力とを失つて
しだいに沈黙勝にならうとしてゐる
私は生れながらの啞でなかつたのを
むしろ不幸に思ひだした
もう人間の姿も嫌になつた
ふるさとの馬よ
お前の胴体の中で
じつと考へこんでゐたくなつたよ
『自由』といふたつた二語も
満足にしやべらして貰へない位なら
凍つた夜、
馬よ、お前のやうに
鼻から白い呼吸を吐きに
わたしは寒い郷里にかへりたくなつたよ。


岩田宏『小熊秀雄詩集』(岩波文庫、1982年)より


◆消耗戦への苦悩ととるか、徹底抗戦の擬態ととるか。
ペン一本で人々の代弁者であり続けるためには、人間そのものを当てにしてはいられないという現実を生きる表現者。

犠牲者に花を手向けること、白紙一枚を手に抗議の沈黙を表現することも逮捕の対象となる強権のもとでも、その様子が世界中に流されることまでは防ぎようがない。

「馬の胴体の中」からでも、考え、見届けることはできるはず、と思う人間たちが居り、その無形のバトンを手渡されたと思う人間が存在する限りは。


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