• もっと見る
« 永瀬清子「悲しいことは万歳でした」 | Main | パワーストーン »
<< 2025年05月 >>
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
カテゴリアーカイブ
月別アーカイブ
日別アーカイブ
永瀬清子「降りつむ」[2023年12月30日(Sat)]

DSCN7686.JPG

◆コナラだろうか。葉を落とした冬の姿が年の瀬の青空を背景に美しい。
(東京都町田市野津田の西山美術館にて)

西山美術館ロダンの彫刻とユトリロの絵画、それに銘石のコレクションを擁する独特な美術館だ。

「バスティアン・ルパージュ」など初めて見るロダンの作品に加え、ユトリロの作品をまとめて見ることができる(4階および5階の2フロアを占めている)。

◆そのユトリロでは、白を基調とする作品に感銘を受けた。

雪のムーラン・ド・ラ・ギャレットを描いた1931年頃の作品のほか、「雪のベッシーヌ・ス・ガルタンプの教会」(1934年)も雪道を歩く人々をリズミカルに配していて面白い。
ほかに「郊外の雪道」という1946年の作品も題名通り、道や建物の屋根に雪が積もり、枝を落とした庭木や街路樹が描かれている。道を歩いている人も3人描かれている。

他には「トルシ・アン・ヴァロアの教会、かわいい聖体拝受者」(1941年)に描かれた白い教会も印象的だ。これには7名(3組のペア+1)の人物が描かれている。
ユトリロが画面に描き込む人物は奇数、というルールがあると解説に記してあったが、以上挙げた作品は、いずれもそれに妥当する。

◆それらの作品を図録で眺めた後に『永瀬清子詩集』を拾い読みしたら、「降りつむ」という雪の詩に再会した。
6年近く前に取り上げた詩だが、今再び読み味わうにふさわしい気がするので、再掲しておく。


*******


降りつむ    永瀬清子

かなしみの国に雪が降りつむ
かなしみを糧として生きよと雪が降りつむ
失いつくしたものの上に雪が降りつむ
その山河の上に
そのうすきシャツの上に
そのみなし子のみだれたる頭髪の上に
四方の潮騒いよよ高く雪が降りつむ
夜も昼もなく
長いかなしみの音楽のごとく
哭きさけびの心を鎮めよと雪が降りつむ
ひよどりや狐の巣にこもるごとく
かなしみにこもれと
地に強い草の葉の冬を越すごとく
冬をこせよと
その下からやがてよき春の立ちあがれと雪が降りつむ
無限にふかい空からしずかにしずかに
非情のやさしさをもって雪が降りつむ
かなしみの国に雪が降りつむ。


谷川俊太郎・選『永瀬清子詩集』(岩波文庫、2023年)より

◆1948年、何もかも失い尽くし、戦禍の爪痕が生々しく残る日本のことをうたった詩だが、天からのもたらされる雪を「非情のやさしさ」と受けとめ、再生への祈りをこめた名詩である。




この記事のURL
https://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/2908
トラックバック
※トラックバックの受付は終了しました
 
コメントする
コメント
検索
検索語句
最新コメント
タグクラウド
プロフィール

岡本清弘さんの画像
https://blog.canpan.info/poepoesongs/index1_0.rdf
https://blog.canpan.info/poepoesongs/index2_0.xml