
永瀬清子「降りつむ」[2023年12月30日(Sat)]
◆コナラだろうか。葉を落とした冬の姿が年の瀬の青空を背景に美しい。
(東京都町田市野津田の西山美術館にて)
◆西山美術館はロダンの彫刻とユトリロの絵画、それに銘石のコレクションを擁する独特な美術館だ。
「バスティアン・ルパージュ」など初めて見るロダンの作品に加え、ユトリロの作品をまとめて見ることができる(4階および5階の2フロアを占めている)。
◆そのユトリロでは、白を基調とする作品に感銘を受けた。
雪のムーラン・ド・ラ・ギャレットを描いた1931年頃の作品のほか、「雪のベッシーヌ・ス・ガルタンプの教会」(1934年)も雪道を歩く人々をリズミカルに配していて面白い。
ほかに「郊外の雪道」という1946年の作品も題名通り、道や建物の屋根に雪が積もり、枝を落とした庭木や街路樹が描かれている。道を歩いている人も3人描かれている。
他には「トルシ・アン・ヴァロアの教会、かわいい聖体拝受者」(1941年)に描かれた白い教会も印象的だ。これには7名(3組のペア+1)の人物が描かれている。
ユトリロが画面に描き込む人物は奇数、というルールがあると解説に記してあったが、以上挙げた作品は、いずれもそれに妥当する。
◆それらの作品を図録で眺めた後に『永瀬清子詩集』を拾い読みしたら、「降りつむ」という雪の詩に再会した。
6年近く前に取り上げた詩だが、今再び読み味わうにふさわしい気がするので、再掲しておく。
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降りつむ 永瀬清子
かなしみの国に雪が降りつむ
かなしみを糧として生きよと雪が降りつむ
失いつくしたものの上に雪が降りつむ
その山河の上に
そのうすきシャツの上に
そのみなし子のみだれたる頭髪の上に
四方の潮騒いよよ高く雪が降りつむ
夜も昼もなく
長いかなしみの音楽のごとく
哭きさけびの心を鎮めよと雪が降りつむ
ひよどりや狐の巣にこもるごとく
かなしみにこもれと
地に強い草の葉の冬を越すごとく
冬をこせよと
その下からやがてよき春の立ちあがれと雪が降りつむ
無限にふかい空からしずかにしずかに
非情のやさしさをもって雪が降りつむ
かなしみの国に雪が降りつむ。
谷川俊太郎・選『永瀬清子詩集』(岩波文庫、2023年)より
◆1948年、何もかも失い尽くし、戦禍の爪痕が生々しく残る日本のことをうたった詩だが、天からのもたらされる雪を「非情のやさしさ」と受けとめ、再生への祈りをこめた名詩である。