• もっと見る
« パティ・スミス「わたしたちのたわごとは……」 | Main | 長田弘「意味と無意味」 »
<< 2024年04月 >>
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        
最新記事
カテゴリアーカイブ
月別アーカイブ
日別アーカイブ
長田弘「空と土のあいだで」[2023年11月16日(Thu)]

◆「天井のない監獄」と呼ばれて来たガザにもわずかながら街路樹があった。
イスラエル軍侵攻前にネットにアップされた画像の中だが。

現在は……手のつけようのない灰色の瓦礫ばかりがどこまでも続く。

それが「かつて」となり「ずいぶん前」となり、さらに「むかし」と言える日が果たして来るだろうか?

その日のためにできること――

たとえば、次のような詩を、小さくとも消えることの決してない炎として、私たちの心の中にあかあかと灯すこと。
一本の木が枝を伸ばし、葉を茂らせ、その根方に憩う日々が続く――
その夢想を現実のものにするために、できることを一つ、いま、探すこと。



空と土のあいだで  長田弘


どこまでも根は下りてゆく。どこまでも
枝々は上ってゆく。どこまでも根は
土を摑もうとする。どこまでも
枝々は、空を摑もうとする。
おそろしくなるくらい
大きな樹だ。見上げると、
つむじ風のようにくるくる廻って、
日の光が静かに落ちてきた。
影が地に滲むようにひろがった。
なぜそこにじっとしている?
なぜ自由に旅しようとしない?
白い雲が、黒い樹に言った。
三百年、わたしはここに立っている。
そうやって、わたしは時間を旅してきた。
黒い樹がようやく答えたとき、
雲は去って、もうどこにもいなかった。
巡る年とともに、大きな樹は、
節くれ、さらばえ、老いていった。
やがて来る死が、根にからみついた。
だが、樹の枝々は、新しい芽をはぐくんだ。
自由とは、どこかへ立ち去ることではない。
考えぶかくここに生きることが、自由だ。
樹のように、空と土のあいだで。

詩集『人はかつて樹だった』(みすず書房、2006年)より。
『長田弘全詩集』(みすず書房、2015年)に拠った。
 

この記事のURL
https://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/2863
トラックバック
※トラックバックの受付は終了しました
 
コメントする
コメント
検索
検索語句
最新コメント
タグクラウド
プロフィール

岡本清弘さんの画像
https://blog.canpan.info/poepoesongs/index1_0.rdf
https://blog.canpan.info/poepoesongs/index2_0.xml