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パティ・スミス「原野」[2023年11月13日(Mon)]


原野  パティ・スミス
            東玲子・訳


動物も人間が泣くような声を上げるだろうか
彼らの愛する者がふらつき
青い静脈の川に
撃たれて引きずり下ろされた時

女はむせび泣くだろうか
苦しむ狼のまねをして
百合はらっぱを吹くだろうか子犬が
皮と巻き毛のために引き抜かれたら

動物は人間のように泣くだろうか
わたしがあなたを失って
吠えるような悲しい声を上げて人を避け
鞠のように丸くうずくまったように

これが
冷たい荒野へのわたしたちの抵抗のしかた
靴もなく手に持つものもなく
かろうじてただ人間であるというだけ

原野を乗り切りながらも
わたしたちはなおも知らされる

ここが時の止まった場所であり
わたしたちにはどこにも行くところがないということを


パティ・スミス詩集『無垢の予兆』(東玲子・訳、アップリンク/河出書房新社、2012年)より

パティ・スミスについて、何も知らずに、表紙に惹かれて偶然手にした詩集『無垢の予兆』の一篇。

生き物の死を悼む思いが詩全体を覆う。ここに人間と動物の区別はない。
喪失の悲しみは、あらゆる生命への愛おしみと一体のものだ。

◆ガザやウクライナでの残虐の限りを尽くしている者たちを、獣じみた、とは言うまい。
動物たちは、かかる非道に及ぶことはないからだ。

動物も人間も屠り尽くしてなお飽き足りない彼らの姿は、ゴヤの描いた「我が子を食らうサトゥルヌス」を思い出させる。


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