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長田弘「怒りと悲しみ」[2023年11月09日(Thu)]


怒りと悲しみ   長田弘


昨日の世界は壊れた。ぜんぶ壊れた。
伝統は壊れ、体系は壊れ、調和は壊れた。
中心が壊れた。何も確実なものはない。

壊れてはじまったのだ、二十世紀の
百年の時代は。国が壊れた。心が壊れた。
音階は壊れた。流れるような旋律は壊れた。

この新しい時代の新しい廃墟に
のこされたのは、自問だけだ。
われわれは何者なのかという自問だけだ。

われわれは、静かに従う人間なのか?
それともみずから反抗する人間なのか?
あるいはただ無関心な人間なのか?

ちがうと、シェーンベルクは言った。
われわれはみな、生きのこりだ。この
壊れた時代に生きのびた生きのこりなのだ。

自分たちの世界に移民のように生きている。
それがわれわれだ。シェーンベルクには
音楽は怒りだった。怒りとは悲しみのことだ。


  アルノルト・シェーンベルク(一八七四ー一九五一)


  『黙されたことば』(みすず書房、1997年)所収。
  『長田弘全詩集』(みすず書房、2015年)に拠った。

◆音楽家をテーマに、作曲家一人一人について連作した中の一篇。
無調音楽の可能性を開き、十二音音楽を確立したシェーンベルク。

この詩がその音楽についてだけ言っているのではないのは明らかだろう。
ウィーンに生まれ、カトリック教徒として育てられながら、プロテスタントに改宗。ナチスのユダヤ政策に反駁してユダヤ教に改宗したというシェーンベルク。
父の早世、聴衆の無理解と攻撃、ナチスの圧迫を逃れアメリカに移住した。

◆「壊れた時代」として始まった20世紀。
21世紀もニューヨークWTCの悲劇に始まり、さらに「壊れた時代」であることをやめない。

違いは、空間・時間的に緩衝として存在した薄膜(遠近や時差)が消滅して、生々しい出来事に常にさらされるようになったことだ。流動し液状化した世界と言うべきか。

そうした時代にあって、鈍感になることを肯んじないで生きようとすれば、それは「怒り」として表出されぬわけにいかなくなる。ただし、それは他者を傷つけることからは最も遠い。
苦痛に苛まれ、どんなに自問してみても、悲しみをほぐすすべがない――それが自分だけではないことを、知っているからだ。

「怒りとは悲しみのことだ。」――この痛切なことばを、誰もが深く受けとめ世界をつくり直す認識にまで高めんことを。



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