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逸見猶吉「報告」[2023年11月05日(Sun)]


報告(ウルトラマリン第一)  逸見猶吉


ソノ時オレハ歩イテヰタ ソノ時
外套ハ枝ニ吊
(ツ)ラレテアツタカ 白樺ノジツニ白イ
ソレダケガケワシイ 冬ノマン中デ 野ツ原デ
ソレガ如何
(ドウ)シタ ソレデ如何シタトオレハ吠エタ
 《血ヲナガス北方 ココイラ グングン 密度ノ深クナル
  北方 ドコカラモ離レテ 荒涼タル ウルトラマリンノ底ノ方ヘ――》
暗クナリ暗クナツテ 黒イ頭巾カラ舌ヲダシテ
ヤタラ 羽搏イテヰル不明ノ顔々 ソレハ
目ニ見エナイ狂気カラ転落スル 鴉
(カラス)ト時間ト 
アトハサガレンノ青褪
(アヲザ)メタ肋骨ト ソノ時 オレハ
ヒドク凶
(イ)ヤナ笑ヒデアツタラウ ソシテ 泥炭デアルカ
馬デアルカ 地面ニ掘ツクリ返サレルモノハ 君モシル
ワヅカニ一点ノ黒イモノダ
風ニハ沿海州ノ錆
(サ)ビ蝕(ク)サル気配ガツヨク浸ミコンデ 野ツ原ノ涯ハ 監獄ダ
(ユガ)ンダ屋根ノ 下ハ重ク 鉄柵ノ海ニホトンド何モ見エナイ
(カラ)ンデル薪ノヤウナ手ト サラニソノ下ノ顔ト
大キナ苦痛ノ割レ目デアツタ 苦痛ニヤラレ
ヤガテハ霙
(ミゾレ)トナル冷タイ風ニ晒(サラ)サレテ
アラユル地点カラ標的ニサレタオレダ
アノ強暴ナ羽搏キ ソレガ最後ノ幻覚デアツタラウカ
弾創ハ スデニ弾創トシテ生キテユクノカ
オレノ肉体ヲ塗抹スル ソレガ悪徳ノ展望デアツタカ
アア 夢ノイツサイノ後退スル中ニ トホク烽火
(ノロシ)ノアガル
嬰児ノ天ニアガル
タダヨフ無限ノ反抗ノ中ニ

ソノ時オレハ歩イテヰタ
ソノ時オレハ歯ヲ剥キダシテヰタ
愛情ニカカルコトナク 瀰漫
(ビマン)スル怖(オソ)ロシイ痴呆(チハウ)ノ底ニ
オレノヤリキレナイイツサイノ中ニ オレハ見タ
 悪シキ感傷トレイタン無頼ノ生活ヲ
(アゴ)ヲシヤクルヒトリノ囚人 ソノオレヲ視ル嗤(ワラ)ヒヲ
スベテ痩
(ヤ)セタ肉体ノ影ニ潜ンデルモノ
ツネニサビシイ悪ノ起源ニホカナラヌソレラヲ
 《ドコカラモ離レテ荒涼タル北方ノ顔々 ウルトラマリンノスルドイ目付
  ウルトラマリンノ底ノ方ヘ――》
イカナル真理モ 風物モ ソノ他ナニガ近寄ルモノゾ
今トナツテ オレハ堕
(オ)チユク海ノ動静ヲ知ルノダ


(『学校詩集』より)

大岡信[編]『ことばの流星群』(集英社、2004年)に拠り、【青空文庫】(*底本は「現代日本名詩集大成 七」創元社、1960年)をも参照した。

逸見猶吉(へんみゆうきち 1907〜1946)の連作詩「ウルトラマリン」の第一部。逸見がこれを書いたのは二十三歳の時だったという。

荒涼たる冬の北辺。沿海州の風が吹きつけるサガレン(樺太)の野原が舞台となっている。

◆黒、鴉、監獄、鉄柵、囚人たち…虚空に乱射する銃弾のように不吉な単語が続く。
実見した風景に基づくのか、幻視がよぎるにまかせているのか、どちらでもかまわない。

詩の中の「オレ」は、負の情熱を傾けて「ウルトラマリン」の海中を目指すのだが、その間、スローモーション・フィルムに合わせるように吐き出される言葉は、90年余も時を隔てていながら、2023年のガザの地獄図にそのまま重なるではないか。
とりわけ、次の一節――

弾創ハ スデニ弾創トシテ生キテユクノカ
オレノ肉体ヲ塗抹スル ソレガ悪徳ノ展望デアツタカ
アア 夢ノイツサイノ後退スル中ニ トホク烽火
(ノロシ)ノアガル
嬰児ノ天ニアガル
タダヨフ無限ノ反抗ノ中ニ






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