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会田綱雄「伝説」1[2023年10月29日(Sun)]

DSCN7489.JPG

イヌタデ。道端、畑のへりなどに似つかわしい。

*******

◆柴田翔の文章を読んで、前回〈死という「贈与」〉という標題で予告的なことを書いた。
その前に、柴田が取り上げた会田綱雄「伝説」という詩を掲げておく。ただし、テキストは別掲の現代詩文庫に拠ることにする。


伝説   会田綱雄


湖から
(かに)が這(は)いあがつてくると
わたしたちはそれを縄にくくりつけ
山をこえて
市場の
石ころだらけの道に立つ

蟹を食うひともあるのだ

縄につるされ
毛の生えた十本の脚で
空を搔
(か)きむしりながら
蟹は銭になり
わたしたちはひとにぎりの米と塩を買い
山をこえて
湖のほとりにかえる

ここは
草も枯れ
風はつめたく
わたしたちの小屋は灯をともさぬ

くらやみのなかでわたくしたちは
わたくしたちのちちははの思い出を
くりかえし
くりかえし
わたくしたちのこどもにつたえる
わたくしたちのちちははも
わたくしたちのように
この湖の蟹をとらえ
あの山をこえ
ひとにぎりの米と塩をもちかえり
わたくしたちのために
熱いお粥
(かゆ)をたいてくれたのだった

わたくしたちはやがてまた
わたくしたちのちちははのように
(や)せほそったちいさなからだを
かるく
かるく
湖にすてにゆくだろう
そしてわたくしたちのぬけがらを
蟹はあとかたもなく食いつくすだろう
むかし
わたくしたちのちちははのぬけがらを
あとかたもなく食いつくしたように

それはわたしたちのねがいである

こどもたちが寝いると
わたくしたちは小屋をぬけだし
湖に舟をうかべる
湖の上はうすらあかるく
わたくしたちはふるえながら
やさしく
くるしく
むつびあう


鹹湖(かんこ)』(緑書房、1957年)所収。
現代詩文庫『会田綱雄詩集』(思潮社、1975年)に拠った。また、一部ルビを付した。


◆最初この詩を読んだとき「蟹を食うひともあるのだ」、この独立させた一行が引っかかった。
貧しく暮らす者にとって、生計を支える蟹は口にすることさえできない、というだけの意味ではないと思われたからだ。

◆少しして、この詩が生まれることになった事情を書いた文章を読むことになった。
衝撃だった。爾来、自分は「蟹を食うひと」にはなれないだろうと思って現在に至る。






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