
電気料値上げ通告ハガキ[2023年06月22日(Thu)]

クサフジ
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◆東電から電気料値上げの通知が届いた。
復興特別所得税を軍事費に転用という倒錯した企みを進めるキシダ政権は、電力会社側の当初要求を減じて善政のごとく演出するが、物価高騰の中、とどめの一撃に等しい通告である。
届いたはがきは、半角カタカナでこちらの名前が印字されたあて名書きの下に、「ご本人さまが開封のうえ、大切に保管してください」と書いてある。「お読みください」とか「ご確認ください」などと書くべきだろうに、すっ飛ばしていきなり「保管して下さい」とは面妖だ。何を恐れているのだろう?
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(無題) 大島邦行
もはや あの としてしか語れない
あの日
美しい人/人が死んだ
抱え込めなかった(私)の両手は重く
(私)の両足は余震に浮いて
逃げる人/人の凍る声が背中に
地球の皮が剝がされていく
あの高いところへ
あの高いところで
計算違いの情報に擦り切れた魂は
猿のように夢みていたか
あの夜の満天の星を
奇跡のような天の川を 瓦礫のあいだで
藻屑のあいだで
重い瞼は閉じられる
冷えた髪に雪が積もり
放置された肉体は緩やかに震え
緩やかに朽ち
きっとひとつの残骸ひとつの惨劇
春は遮断された
地球が銜え込んだ目鼻から
芽吹きはあるか
創世神話の錯誤が二十世紀を飾り
約束された土地の 扁平な
何もない
あそこの
あの爆発までは あと何時間
人を
地球を
引き裂いた日 ヒロシマの
あの碑文は六十余年
主語の不在に耐えてきた
言葉が届かない
(私)の時間は水漏れを起こしたまま
恐怖も憤怒も
沈み込んだ地下道に滞留する
地獄の抜け穴の算術は
排泄されてもなお神であることの傲慢さ
ばらまき
浮游し
隠蔽する言葉の群れが
あの
あそこの
不可解な死を共犯=関係の闇に閉ざす
(私)の言葉よ
あれからの
あの放(た)れ流さるる明るさ
透明(ぴゅあ)なこころみたいなものから
ひどく薄っぺらな未来図の
一切の関係を発ち 真っ直ぐに
命につながる(私)の呼吸
われ/われではない(私)の律動
われ=われにつながる結び目を
あの日の
あの瓦礫のところの
藁しべ一本のところから
実生(みしょう)の地霊がやわらかい風にたわみ
しなやかに舞うであろう
あの 記憶のために
「ふるさと」を歌うな
「赤とんぼ」を歌うな
回収されない言葉のために
がんばろう 否(ノン)
ひとつになろう 否(ノン)
『逆走する時間』(思潮社、2018年)より。
◆大震災とフクシマの原発事故から12年、当時小学校にあがった子どもたちがもう成人を迎える年になった。
上の詩にあるように、時が経てば、味わったことどもを「あの」という言葉で表すほかない。
だが、どこまで行ってもそれは、抱えようとして果たせなかった(私)の両手も、浮いた、としか言いようのない両足も――ことごとく射抜かれたような体験と直接につながっている。
だからこそ「人/人」「われ/われ」と表現するほかない。「人々」「我々」と集合的に表現して片付けることはできないのだ――(私)として息を継いで紡ぎ出す言葉を、一人ひとりの魂に届けようと願う限り。
一方に、原発を作り、今また再稼働を進める者たちの、隠蔽する言葉が至る所に浮游している。
「ふるさと」や「赤とんぼ」を歌う涙で汚染水を薄めることはできない。ただ、歌に添える「がんばろう」「ひとつになろう」の掛け声が悪かろうハズはない。
その空気さえ漂わして置けば、確実に異議申し立ての口封じになるのだから。