
堀田京子「六月の風」[2023年06月02日(Fri)]
六月の風 堀田京子
まっ赤にうれたグミの実が
六月の風に揺れる
生まれたばかりのかわいいクモ
指で触れると慌てて糸をひいて逃げてゆく
グミの実を口に含めば甘酸っぱい
ああ 幼き日よ 今 よみがえる
七変化のアジサイが雨に濡れて光る
移り行く時代 人の心は風のよう
カタツムリはもういない
どんよりした空を見上げる
父の日に父はいない
六月の風に微笑む
ブルーのカーネーション
ああ 父よ
私を励まし元気づけてくれた人
あの雲はどこへ流れてゆくの
あの山の向こうには何があるの
堀田京子詩集『吾亦紅(われもこう)』(コールサック社、2022年)より
◆打ちつけるような雨と風。しっかり持って開いたはずの傘が、開ききらぬ先に飛ばされて行ってしまった。手が離れなければメリーポピンズ状態になったかも知れない。
◆上の詩は、もっと優しい六月の風だ。小さきものたちを見守りながらのように空を渡る。雨もしっとりとやわらかだ。
◆梅雨空のもと、点在する赤や青に導かれるように「私」は幼き日にさかのぼりながら身の丈を縮めてゆく。それに反比例するように大きくなってゆく父のイメージ。
流れてゆく雲がいざなう先に「永遠の幸福」(ブルー・カーネーションの花言葉)が待っていると、あの頃は思えていたのだろうか。