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秋亜綺羅「ひとは嘘をつけない」[2023年05月25日(Thu)]


ひとは嘘をつけない  秋亜綺羅(あき あきら)


オモテは裏にとってみれば
裏なのかな

ぼくの影にとってみれば
ぼくは影なのかな

行方不明になれる権利とか
死ぬのが惜しいとおもう夜とか
もうひとりのぼくと喋れる糸電話とか
ぼくが欲しいものはたくさんある

ぼくを一本持って
鉛筆は詩を書いている

ことばは反則も場外乱闘もできない
「反則」も「乱闘」も辞典の中にあるんだ

籠の中から青い鳥を放してあげようか
青い鳥は黒い青空を舞ったあと
巨大な鳥に食べられるだろう

食べられながら自由を感じるんだ
自由は巨大な鳥を食べるんだよ

真実があるから
噓があるんだよね

ひとは噓をつけない
だって真実なんて
辞典の中にしかないのだから



曽我貢誠/佐相憲一/鈴木比佐雄『少年少女に希望を届ける詩集』(コールサック社、2016年)より


◆「オモテ」に対して「裏」、「ぼく」という実体に対してその「影」――これらを対(つい)として並べて〈考える〉ことの準備体操からこの詩は始まる。
詩の後半、「真実」と「嘘」にせまってゆくための〈素振り〉のようなものだ。

実体である「ぼく」が「影」に目をこらせば、影の方がだんだん濃くなって、「ぼく」の本体は限りなく薄くなってゆくように感じられる。まるで「影」のほうが本当の「ぼく」=本体であるみたいに。

本体から「魂」が離脱して、ぼくの「本体」がフッとかき消された瞬間
――それが第四連だ。

ぼくを一本持って
鉛筆は詩を書いている


「ぼく」と「鉛筆」とが入れ替わった。

◆その次の連から先は、「鉛筆」による自動書記のようだ。
あるいは「鉛筆」の方が「ぼく」に語りかけてくると言ってもよい。

少なくとも続く三つの連ー―〈ことばは〜あるんだ/籠の中から〜食べられるだろう/食べられながら〜食べるんだよ〉――以上は「鉛筆」から「ぼく」への語りである。

◆その先、終わり二つの連は幾通りかの読み方が可能だが、今日の段階では次のような対話として読んだ、と、今日の読者である「私」自身に報告して置こう。

【ぼく】真実があるから
    嘘があるんだよね


【鉛筆】ひとは嘘をつけない
    だって真実なんて
    辞典の中にしかないのだから




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