
高垣憲正「つっぱり・チャボ」[2023年01月18日(Wed)]
つっぱり・チャボ 高垣憲正
常世の長鳴鳥で夜が明けて
かつては天孫民族を誇ったが
本当はテンション民族なのだ
仮想敵に怯えてきょときょと右顧左眄
へっぴり腰でちょこまか歩きまわっては
何かと言えばすぐトサカに来ちゃう
白地に赤くトサカ振り立て
ミサイルみたいな嘴突き出し勇ましいが
ふとしたショックにもたちまち鳥肌立って
産卵機能がストップしてしまうのだ
愛すべき小さなにわとりよ
おまえはワシでもタカでもない
いい声で長く長く鳴いて 世界に朝を呼びなさい
冬の陽を満身に浴びて さっそうと屋根まで飛びなさい
日本現代詩文庫『高垣憲正詩集』(土曜美術社出版販売、1997年)より
◆詩集には、かたつむりや灰皿といった身近な虫や器物が多く登場する。それらは描く対象というよりも、詩人が憑依する対象で、彼らにとりつくか取り込まれるかすれば、無機物ですら語り出し、彼らの側から人間世界を眺めることになる。
◆この詩では、バンセイイッケイのコウトウの夢から覚めたチャボがきょときょと歩いている。
東海の小島に住む、まことに小ぶりな民の自画像だ。
その姿が示すように、いっとき気張って見せたところで虚勢と小心は隠しようがない。
海の向こうのワシと肩並べ地球を睥睨(へいげい)しようなどというコウトウムケイの野心は捨て、日の本の立地を活かして、夜が明けたゾと告げ知らせる務めをしっかり果たすことだ。
そのためにはまず、小屋根から見下ろせる我が足もとが平和でなくては。