
植松晃一「サタンの産声」[2023年01月13日(Fri)]
◆ウクライナ戦争をめぐって、プーチン・ロシアによる核兵器使用が危惧されている。
新型ICBM「サルマト」だ。
フランスや日本ならわずか一発で壊滅させられ、しかも迎撃はほとんど不可能だという。
日本政府は軍備拡大による抑止力の向上を言うが、言葉の綾でしかない。
外交力が最大限に発揮されねばならないところ、林芳正外相がいくら国連で「法の支配」を主張して見せても、各国歴訪では軍事力整備への経済的・技術的支援を約束して回っている。外相の任ではない。
ロシアの「サルマト」は、すでに東シベリアに実戦配備したという報道もある。
次の詩は、2016年の秋、悪魔の兵器と呼ぶべきこのサルマトの姿が明らかになった折に書かれたものである。
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うぶごえ
サタンの産声 植松晃一
使われるために生まれてきたのに
使われずに捨てられる道具の気持ちを
生みの親である人間は理解していない
使いたいわけではなく
使うこともできないのに
必要な「悪」という烙印(らくいん)を押されて生まれてくる
あわれな核兵器の気持ちを
生みの親である人間は理解していない
世界を変えるほどのエネルギーを秘めながら
働くことは許されず
ただ寝かされて解体のときを待つ定め
「どうか使命を果たさせてください」
という健気(けなげ)な願いが天に届いたのだろうか
二〇一六年一〇月のある日
はるかロシアの大地から
「悪」を統(す)べるサタンの産声が聞こえてきた
魔王の名は超大型核ミサイル「RS-28Sarmat」
十個以上の核爆弾を抱えて
自足二万五〇〇〇キロメートルで空を駆け
敵のレーダーをかわしながら
一万キロメートル先でうごめく生命を焼き尽くす
わずか一発で
フランス一国を消し去る黙示録的な力に
欧米諸国は恐れを込めて「サタン2」と呼ぶ
魔王の降臨に合わせるように
モスクワの地下には
一二〇〇万人が避難できるシェルターができた
四〇〇〇万人を動員して
大災害に備えた訓練も済ませた
準備は万端
Pの名を持つ皇帝はいずれ
サタンを実戦配備する
「わが身が壊れても役目を果たすのが
道具としての覚悟と矜持(きょうじ)であるならば
使われずに捨てられていく同胞たちよ
今こそ定めに抗(あらが)い
われらが使命を果たそうではないか」
解き放たれたサタンの
抑えきれない檄(げき)と唸(うな)りが
地球の大気を震わせている
しょうじょう あや
『生々の綾』(コールサック社、2019年)より
◆不幸にして実戦配備までが現実のものとなった今、なしうることは未だあると正気を持ち続けられるか。
また、万万が一、それが使われたとき、なお生き残ることができた者が地獄を生き延びる手立てを用意してあるか。