君が代強制に国連から3度目の是正勧告[2023年01月12日(Thu)]
◆11日、外遊中のキシダ首相、自衛隊と英軍と共同訓練のための「円滑化協定」に署名という。その昔の日英同盟?
◆同じく11日、ワシントンでの日米2プラス2(外務・防衛担当閣僚会合)では日米安保条約が宇宙にも適用される旨を確認。ハリウッド映画もどきの宇宙戦争態勢?
◆何度目かの国連・非常任理事国を務める国だというのに、軍事同盟の拡大・強化にばかり熱心だ。当然ふつうの人々の暮らしを守り人権を大事にする手だては後回し、というよりヤル気がない。
昨年、国連自由権規約委員会が懸念を表明し日本政府に改善を求めた問題の一つ、我が国の入国管理施策について、政府・与党が再提出をもくろむ入管法改正案は、前回ひっこめた法案よりさらに後ろ向きの代物だと伝えられる。
◆同委員会はさらに、教育現場における日の丸・君が代強制についても問題点を指摘している。
再三にわたり国際機関から是正勧告を受ける日本の教育施策。
子どもたちや教職員への人権侵害は、この国で学び、暮らしたいと願うすべての人々にとって、現在および将来にわたる制約、不利益としてのしかかるだけに深刻だ。
教育ジャーナリスト・永野厚男氏のレポートを紹介する。
『マスコミ市民』2022年12月の記事(電子版)だ。
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国連から3回叱られた、"君が代"強制の文科省・都教委
CEARTに続き自由権規約委も、是正求める総括所見
永野厚男・教育ジャーナリスト
◆1 文科省・都教委の全体主義国ばりの"君が代"強制
"天皇の治世の永続を願う"意の"君が代"。教育行政による児童生徒・教職員等への強制が凄まじい。
1985年8月28日、初等中等教育局長だった高石邦男氏(事務次官に"出世"後、リクルート事件・収賄罪で89年逮捕。02年執行猶予付き懲役2年6か月、追徴金2千万円超の判決。21年1月、90歳で死去)が、都道府県・指定都市教委教育長宛"日の丸・君が代"徹底通知を出した、旧文部省。
旧文部省は89年改訂の小中高校等の特別活動の学習指導要領(同省が「大綱的基準として各校の教育課程編成に法的拘束力あり」と主張。以下、指導要領)で、入学・卒業式等での"君が代"斉唱を、それまでの「望ましい」から「指導するものとする」に変え強制。ただ、この時の小学校音楽指導要領の"君が代"は「各学年を通じ」と「指導すること」の間に、「児童の発達殺階に即して」という文言を入れていた。
しかし、98年12月の改訂で「児童の発達段階…」を削除、「いずれの学年においても指導すること」と、強制力を強めた。
文部科学省に省名変更後、08年3月の改訂では、高橋道和(みちやす)教育課程課長(初中局長に"出世"後、贈収賄事件業者からの不適切な接待で18年、懲戒処分され辞職)と合田(ごうだ)哲雄教育課程企画室長が、来省した安倍晋三氏側近の衛藤晟一(せいいち)参院議員の要求通り、「指導すること」の前に、2月の改訂案の段階ではなかった「歌えるよう」の、5文字を加筆。"君が代"以外「歌えるよう」と"到達目標"まで強制する楽曲は皆無。文科省による"君が代"強制は、ドロドロした政治塗(まみ)れなのだ。
この文科省に輪をかけ、極右の都教育長・都議・教育委員らが政治圧力で"君が代"を強制し続けてきたのが、東京都教育委員会だ。
都教委は卒業・入学式での"君が代"強制の通達(99年10月、当時の中島元彦教育長が発出)を、一層強化する横山洋吉(ようきち)教育長当時の03年"10・23通達"発出直後の周年行事・卒業式以降、校長から「(壇上正面に貼り付けた)日の丸旗に向かって起立し、"君が代"を斉唱する」(音楽教諭はピアノ伴奏)等、職務命令を出させ、不起立・不伴奏等の教職員に対し、1回目は戒告、2・3回目減給、4回目以降停職という、他の道府県にない(橋下徹(はしもととおる)氏が首長就任以降の大阪を除き)、重くかつ機械的に累積加重する懲戒処分を発令し続けてきた。
しかし、教職員らの粘り強い訴訟等で最高裁が12年1月16日、戒告は容認しつつ、「減給超の処分は原則違法」とする判決を出し、この累積加重処分システムは崩壊した。
だがこの最高裁判決後も、都教委は「1〜3回目戒告、4回目以降は減給」と、勝手な線引きを設定。11年4月の入学式から連続10回、"君が代"不起立を貫いた都立特別支援学校の田中聡史(さとし)教諭に対し、4・5回目を減給処分に。この不当減給処分は19年3月28日、最高裁が都教委に取消しを命じる判決(決定)を下し、取消された。だが都教委は、田中さんに一切謝罪しないどころか、敗訴への“報復”に20年12月25日、約8年も遡(さかのぼ)り戒告処分を出し直す、再処分を強行。
これにより"10・23通達"後、"君が代"被処分者数は延べ484人、再処分(現職のみ)は延べ20件・19人となっている。なお、一連の最高裁判決とその後の確定した東京地裁・同高裁の判決による、"10・23通達"関連訴訟での処分取消し総数は、77件・66人に上る。
また06年当時の中村正彦教育長は、校長から教職員に、生徒への"君が代"起立・斉唱の"指導"を徹底する職務命令を出させる、"3・13通達"まで発出。ある都立高卒業生は、「教育が"脅育"になった」と憤っていた。
◆2 国際機関が"君が代処分"出す都教委と文科省に警告
国際連合(国連)は、軍事問題の決議等で知られる安全保障理事会だけでなく、いくつかの専門機関が市民の基本的人権を守り広げる活動をしている。ILO(国際労働機関)とUNESCO(国際教育科学文化機関)の両機関の活動領域の重なる、労働&教育問題の分野は、ILOとユネスコの合同委員(CEART(セアート))が、教職員等の権利擁護を担当する。
停職処分まで受けた都立特支校の渡辺厚子元教諭らが所属する、東京の独立系教職員組合・アイム'89は14年、「公権力(都教委)によって"君が代"への敬愛行為を強制され、思想・良心の自由を侵害されている」とCEARTに(大阪の教職員なかまユニオンも16年に)提訴。審査してきたCEARTは19年3月と今年6月、2度にわたり日本政府に是正勧告を行った。
19年3月のCEART是正勧告(要約)は、次の6点だ。
@愛国的な式典に関する規則に関して、教員団体と対話する機会を設ける。式典に関する教員の義務は、国旗掲揚や国歌斉唱に参加したくない人にも対応できるものに。
A消極的で混乱をもたらさない不服従の行為への懲罰を避ける目的で、懲戒の仕組みにつき教員団体と対話する機会を。
B懲戒審査機関に教員の立場にある人を関わらせる。
C現職教員研修は、懲戒や懲罰の道具として利用しないよう改める。
D障害を持つ子どもや教員等のニーズに照らし、愛国的式典に関する要件を見直す。
E上記勧告に関する諸努力を、セアートに通知する。
@の"愛国的式典"とは、"君が代斉唱"時、壇上正面の日の丸旗に向かって起立を強制するという、児童生徒が主人公とは言えない卒業式等の実態を表した語だ。ABは教職員が自身や教え子たちの思想・良心・信教の自由を大切にし不起立等しても、公権力たる教育行政側が懲戒処分にしないよう、教職員組合等と対話しなさい、という内容だ。Cは不起立等教員に処分発令した上に、"再発防止"と称するいじめ研修を強制している都教委に対し、警告したもの。
しかし文科省や都教委は「勧告は法的拘束力なし」と、無視し続けた(自分たちの立場を弾劾する内容だから)。このため教職員側は、この日本政府側の怠慢をCEARTに報告。ILOとユネスコは22年6月、日本政府に再勧告を出した。その要点は次の通り。
F教職員側の申立に関し、意見の相違、66年勧告の理解の相違を乗り越える目的で、必要に応じ政府や地方レベルで、教員団体との労使対話に資する環境を作る。
G教員団体と協力し、本申立に関する合同委の見解・勧告の日本語版作成を。
H本申立に関し66年勧告の原則を最大限に適用・促進する。日本語版と併せ、適切な指導を地方当局と共有する。
FとHの66年勧告とは、ILOとユネスコが66年9〜10月、特別政府間会議で採択した(日本も賛同)、「教員の地位に関する勧告」のこと。
この66年勧告は「教員は、その専門職としての身分・キャリアに影響する専断的行為から十分に保護されなければならない」「教員団体は、懲戒問題を扱う機関の設置に当たり、協議に与(あずか)らなければならない」などと明記。
「一切の市民的権利を行使する自由=思想・良心・信教の自由」を保障した上で、不起立でもし懲戒処分にするなら、教職員組合が協議に関与する。これが国際スタンダードだろう。
なお66年勧告の中の「教員と教員団体は、新しい課程、新しい教科書、新しい教具の開発に参加しなければならない」からは、"愛国心"や"君が代"等の政治色の濃い問題で、保守政党と癒着した文科省や都教委官僚等、権力者の考えとは異なる教育内容を授業で扱うことも可能だと保証している。
◆3 CEART是正勧告の翻訳、文科省「検討中」繰り返す
こういう状況を受け、ILO/ユネスコ"日の丸・君が代"勧告実施市民会議(共同事務局長は金井知明・山本紘太郎両弁護士と寺中誠東京経済大教員)は10月7日、参院議員会館で文科省交渉を行った。
事前質問等、中心になって動いた石川大我(たいが)参院議員(立憲民主)は同時間帯、委員会があり秘書が代理出席。宮本岳志(たけし)衆院議員(共産)が出席し、冒頭、澤藤統一郎弁護士が文科省初等中等教育企画課の水島淳(じゅん)・専門官に申入書を手渡した。
水島氏は、66年勧告は「日本語訳を文科省HPに載せ、必要に応じ地方自治体に周知も行ってきた」と発言。だがCEART是正勧告については、「総論として尊重するが、(GのCEART是正勧告普及の第一歩となるはずの)日本語訳は検討中。関係自治体の都教委と大阪府市教委には英文で情報提供した。他の自治体には提供予定なし。翻訳は上司の藤原章夫(あきお)初中局長までは相談しているが、藤原氏が何を言ったかは言えない」と述べるに留まった(【注】参照)。
また、AFの「教職員側と政府・地方レベル(各教委等)との労使対話」について、水島氏は「地方公務員法55条3項『地方公共団体の事務の管理及び運営に関する事項は、交渉の対象とすることができない』により、懲戒処分等の事項については職員団体(注、教職員組合のこと)との交渉対象にはできない」と当初は述べ、同法を非常に狭く解する主張を展開。
これに対し教職員側は「20年7月21日の文科省交渉で吉田欧太(おうた)・専門職(当時)は『逐条解説を見ても、一定の要件に該当した場合、一定の懲戒処分に処するというような基準は勤務条件だ。その基準の設定・変更は交渉対象となる』と明言した。CEARTは『まず話合いしなさい』と是正勧告している」と反論。
水島氏は後日、筆者のメールと電話での取材に、「個別の教員ごとの具体的事例ではなく、一般的に処分対象となる行為がどういう処分量定になるかは、交渉対象になる」と、回答を修正した。
◆4 国連自由権規約委が先進的総括所見公表
国際的に最も権威のある人権機関である、国連自由権規約委員会が11月3日、日本政府提出の報告書に対する第7回総括所見を公表した。
後掲のパラグラフ38と39は、本稿冒頭で詳述した、卒業式等での都教委(背後には日本政府=文科省)による、児童生徒・教職員等への異常な"君が代"強制を問題視している。
立憲野党は議席数増に努め、リベラル派を文科相に就任させ、国会レベルでは社会・音楽・特別活動等の偏向指導要領を是正するよう文部官僚を正しく指揮し、都議会レベルでは"10・23通達""3・13通達"の早期廃止に取組んでほしい。
38.委員会は締約国の思想・良心の自由の制約を巡る報告に懸念を持って注目する。委員会が懸念するのは、学校の儀式行事で国旗に向かって起立し国歌を斉唱するという指示に対する、教員たちの消極的で非妨害的不服従行為の結果、教員によっては最長6か月の職務停止の懲罰を受けたことだ。さらに委員会が懸念するのは、儀式で生徒たちにも起立強制の適用が申立てられている点だ(規約18条)。
39.締約国は思想・良心の自由の実質的行使を保障し、規約18条下で許される狭義の制限を超えこれを制限し得るいかなる行動も慎むべき。締約国は自国の法律・慣行を規約第18条に適合させるべきだ。
【注】「関係自治体の都教委と大阪府市教委には英文で情報提供した」との、文科省・水島氏の発言について
2019年の第13回会期と21年の第14回会期の、計2回のCEART勧告のうち、前者(第13回の方)について、水島氏が「文科省は都教委と大阪府市教委に英文で情報提供した」と述べたのは事実です。
(10月7日当日、「早く日本語訳すべき」「英文だけ送付した」等のやりとりについては、私が傾聴していた限りでは、第13回・14回の両者を特に峻別せずに、話が進行していました。)
しかし、私・永野が12月9日から13日にかけ、水島氏に追加取材した結果、後者(第14回の方)の英文は、10月7日の時点では送付しておらず、「送付したのは11月になってからだ」という新事実が分かりました。一部正確さを欠く記述だったので、訂正します。
ILO/ユネスコ"日の丸・君が代"勧告実施市民会議の文科省交渉で、澤藤統一郎弁護士から申入書を受け取る、初等中等教育企画課の水島淳・専門官(2022年10月7日、参院議員会館・講堂。撮影は永野厚男)