
菊池唯子「散歩」[2023年01月06日(Fri)]
田んぼに氷が張っていたものの、わずかながら日が長くなったと感じる。
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散歩 菊池唯子
歩く速さが好きなのは
流れることを知ったから
つぼみが目に入るのは
花開くことを知ったから
クロッカスが淡い雪の下に
土の中に積もる時が静かな石に
すでにだれかがさわっていった
遠い暮らしのかけらの上に
歩みを止めて耳を澄ますと
湖は雲の流れを映し
やわらかにしなる枝の先の
頂は雪
呼びかける人の姿が消えても
答えを知る手だてがなくても
はるか南から 春の気配
菊池唯子(ゆいこ)詩集『青へ』(思潮社、2022年)より
◆雪の下や土の中に在るものに想像力が働くのは、五感をやわらかに開いているからこそ。
動くもの、変化するものたちに自分がつながっていると知ることは、誰にもそうそう訪れるわけではない。