
この世界にふさわしいものとして―志樹逸馬「朝」[2022年12月04日(Sun)]
◆志樹逸馬には、次のような佳篇もある。
自分の足もとが不確かなことに悩むとき、あるいは、どこにも居場所がないと思われて苦しいとき、そんなことは決してないよ、と語りかけそっと肩に手を置いてくれる、そんな詩のことばだ。
◆最終連、
〈わたしも/この世界にふさわしいものとして/ひとつの位置のあることを/感じる〉
――なんと深く確信に満ち、そして静謐なことばだろう。
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朝 志樹逸馬
海辺の芝草をサクサク踏んで
たれにも気づかれず
朝はやく 露にぬれたなぎさに 近よる
自然が たれにも 見られているという
意識をもたない
静かなすがたでいるところを
そっと 足音をしのばせて
近よって
ながめたい ながめる
わたしは この時 とてもうれしい
美しい
なつかしい
幸福だとおもう
わたしも
この世界にふさわしいものとして
ひとつの位置のあることを 感じる
若松英輔・編『新編 志樹逸馬詩集』(亜紀書房、2020年)より

★装丁:たけなみゆうこ(コトモモ社)