
志樹逸馬「種子」[2022年12月01日(Thu)]
種子 志樹逸馬
ひとにぎりの土さえあれば
生命はどこからでも芽を吹いた
かなしみの病床でも
よろこびの花畑でも
こぼれ落ちたところがふるさと
種子は
天地の約束されたことばの中に
ただ みのる
汗や疲れをなつかしがらせるものよ
夢
黒土の汚れ
生きてさえおれば
花ひらく憧(あこが)れをこそ持って来る
若松英輔・編『新編 志樹逸馬詩集』(亜紀書房、2020年)より
◆第三連、種子が実るのは「ことばの中」、それも「天地の約束されたことばの中に」であるということ。詩人がつかみ得た真実だ。
単に自己表白や、いっときの慰めにとどまらないことば。
それは遠い旅に出る――根を伸ばし養分を吸い上げて花ひらくための力を秘めて。
風や水に運ばれ、たどり着いたところの土、その約束の地に新たな言葉が芽吹く。