
若松英輔「手の仕事」[2022年11月26日(Sat)]
◆出先で食べようとおにぎりを作り、お茶とコーヒーも用意したのに、時間を気にしたスキに持って出るのを忘れてしまった。作ったおにぎりは3人分の6ケ。4ケは留守番する家族の分だ。
◆帰宅後、次の詩に出会って、手が二本あることの意味について思いをめぐらすことになった。
手の仕事 若松英輔
危機のときには
片手に
見えない杖を
もたねばならない
しかし
もういっぽうは
誰かの手を
つかめるように
空けておけ
詩集『美しいとき』(亜紀書房、2022年)より
◆自分に備わったものを用いて危難を避けるのは当然だが、それさえ杖の助けがあって可能になることがある。「見えない杖」とは誰かが差し出してくれる有形無形の支えのことだろう。
それを神慮として深く受けとめる場合もある。
そうした時でさえ、もう一方の手を空けておけ、と詩は言う。
誰かが助けを必要としていても、誰の両手もふさがっていては、すがることをためらい、呼び止める言葉を吞み込んでしまうことさえあるだろうから。
◆さて、おにぎりは両の掌を結び合わせて作る。
ならば、握りながら、食べる誰彼のために、と念じながら握れば、仕上がりも違ってくるだろう。
今朝、留守番部隊の分まで握ったときにそんなことまで考えなかった。
海苔やゴマ塩を用意したついでに、と考えたに過ぎない。
◆帰宅後、忘れて行ったおにぎりを食べたら塩が少々足りなかった。誰かのためにという心がけの方も足りなかったためだろうか。
畢竟、凡夫の両の手は、わが身を養う目的の外に出ることがない。