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井村たづ子「空き家」 [2022年09月24日(Sat)]

DSC_0301芙蓉2-A.jpg



空き家  井村たづ子


夕日を飲み干した空き家は
天井がひび割れる低い音を聞きながら
色づく一番星の方へと
ゆっくりと傾く

人の顔をした芙蓉の葉が
割れた窓硝子の中の人を
無用な舌で舐め回しおびき寄せようとするが
未だそこに存在した者を
見た者は誰もいない

苔むす玄関の敷石は墓石の足元
月が出た夜は
月が一晩中失くした足跡を探し続け
風の吹く日は砂埃が泣き通すという

全ては夜が招く残像なのだ

日没の速さで人も家もすっかり老い
積もった懐かしい時間を
五本の指でなぞったりする

濃霧に煙る朝
芙蓉の葉がまださめざめと
眠りの底をさまようとき
水銀灯の小さな瞬きとともに
がたがたと音をたてて
崩れる空き家に
着飾って入っていく人を
見た人は確かにいる


『恐竜の卵が降ってきて』
(砂子屋書房、2019年)より


◆廃屋への挽歌と言おうか。
そこには現身を脱ぎ捨てた女主人の魂魄が留まっているようだが、目撃した者はいない。
(実のところ、すでに生前から気配のみで、その姿は誰の記憶にも残されていないのだったが。)

廃屋の主と戯れるように、また守護するように芙蓉が庭にある。
その大きな葉は、割れた窓硝子の形にも見え、庭や室内のあちこちに張られた蜘蛛の巣にも見える。
芙蓉が風に吹かれて揺れるさまは人めいている、確かに。

井村たづ子『恐竜の卵が降ってきて』表紙2.jpg
井村たづ子詩集『恐竜の卵が降ってきて』
装本・倉本修




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