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金丸桝一「せかいはしずかだ」[2022年09月16日(Fri)]


            
せかいはしずかだ   金丸桝一(かねまるますいち)


時間のひきだしのなかの
はりめぐらされた鏡のなかの
遠いはるかな町で
飴玉が売れている
野菜が売れている

せかいはおびえてしずかだ
葉をふりはらった枝々
煙突
電柱
家々

せかいはしずかだ
反芻されたおおくの希望ののちに
はがれた舗石が映っていて
ふいにほとばしる血が映っていて
だれもそいつを止めることができないでいる

せかいはしずかだ
おびえて飢えて
たおれていく難民の群れでしずかだ
鏡のうらがわに押し寄せる闇の
そのずうっと果てまで
うなだれたいちれつ
がしずかだ



日本現代詩文庫『金丸桝一詩集』(土曜美術社出版販売、2000年)より


◆平和で穏やかな時間が続いて「しずか」なのではなく、反対に、むき出しの暴力を浴び、のどを塞ぐほどの絶望と恐怖に言葉を奪われてしまったから「しずか」なのだ。

子どもたちのために飴玉を買い、夕食の野菜を買い物籠に入れる――そうした日常は、鏡にくり返し映って無限の遠くまであるように見えるが、しかし本当は閉じられた極小の世界に浮かぶ像でしかない。
つまりは実在しないに等しい。

現実の世界は鏡の裏の闇の中にある。
逃れ行く人々の奪われた声を聞こうにも、我らもまた耳を聾する爆風に、鼓膜を失ってしまったのではないか?

***

16日、ウクライナ東部、イジューム(ハルキウ州とドネツク州の境)で、440基もの無名の墓が見つかった。

*奇しくも1932年9月16日「平頂山大虐殺事件」から90年の日である。
中国東北部で帝国日本軍が行った虐殺事件。
鬼原悟氏のBlog「アリの一言」に教えられた。

◆【ウクライナ戦争と平頂山大虐殺事件】(9月15日記事)
https://blog.goo.ne.jp/satoru-kihara/e/f4560392e5a3f1b5a29ab14a0718d954


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