
高細玄一「薄月」[2022年09月15日(Thu)]
薄月 高細玄一
昼間に白く 薄く在る月
堂々と 輝いている ときは
短い
人間の罪のように
いつも通る
無骨なボルトの浮き出た鉄橋が
架け替えられた
もう今日から そこに存在したことも
想い出す人はいない
夜風が
一陣の砂埃を巻き上げるが
一枚の貼り紙だけを残して
会社が消えた
会社に連なる諸々も
消え
なにごとも無かったように
存在し続けているもの
『声をあげずに泣く人よ』(コールサック社、2022年)より
◆「薄月」(うすづき)、一般には薄雲がかかった月のことかと思うが、この詩では冒頭に定義してあるように昼の月だ。地上の変化を見ていながら素知らぬ風で空に在るもの。
◆人の寿命より長そうな堅固な鉄橋も、新しく架け替えられれば前の風景は忘れ去られる(記憶の更新)。
モノや情報を通してさまざまな人をつなぎ、その暮らしを成り立たせていた会社も永遠ではない(組織が活動を停止するとき)。
*五輪をめぐる贈収賄事件で老舗出版社に司直の手が及んだ。
すべてをたたんで張り紙する時が来るんだろうか。
それとも、看板を付け替え、嵐が通り過ぎるのを待つのだろうか。