• もっと見る
« 大谷選手をめぐる数字ふたつ | Main | リッツォス「歩み去る」 »
<< 2024年03月 >>
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
最新記事
カテゴリアーカイブ
月別アーカイブ
日別アーカイブ
中井久夫 訳:リッツォス「朝」[2022年08月13日(Sat)]

◆先日亡くなった精神科医・中井久夫には、カヴァフィスなど、現代ギリシア詩の訳業がある。
『リッツォス詩選集』というのもあり、これは詩人の谷内修三(やち・しゅうそ)による「中井久夫の訳詩を読む」という解説が各詩に附いた、ぜいたくな一冊だ。

その中から、嵐の過ぎた早朝のように印象的な一篇――


朝   リッツォス
        中井久夫・訳

彼女は鎧戸を開けた。シーツを窓枠に干した。陽の光を眺めた。
鳥が一羽 彼女の目を覗き込んだ。「私は独り」と彼女はささやいた。
「でもいのちがあるわ!」彼女は部屋に戻った。窓が鏡になった。
鏡の窓から飛び出したら自分をだきしめることになるでしょう。


中井久夫『リッツォス詩選集』(作品社、2014年)より


◆シーツが風に翻った瞬間、そこに現れたのは、さっき窓の外からこちらを覗き込んだ鳥に変身した「私」。
――読者は、手ぎわ鮮やかな手品の目撃者&証人となる。

窓のこちら側にいたはずの「私」が一瞬のうちに解き放たれ、それまでの「私」をガラスの向こうに見ている。室内から外光の中への瞬間移動は、窓が、過去と未来を同時に映す鏡となったおかげ。

***

ヤニス・リッツォスYannis Ritsos(1909-90)…きわめて多産な詩人で、八十冊を超える詩集があるという。若き日に独裁政権による焚書に遭い、ドイツ軍に対する抵抗運動、さらにはギリシア左翼戦線に加わって二度に及ぶ流刑に遭うなど、波乱の時代に抗して生きた人だが、晩年はアテネ郊外に閉居しほとんどの来客を拒んだという(訳者解題による)。



この記事のURL
https://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/2406
トラックバック
※トラックバックの受付は終了しました
 
コメントする
コメント
検索
検索語句
最新コメント
タグクラウド
プロフィール

岡本清弘さんの画像
https://blog.canpan.info/poepoesongs/index1_0.rdf
https://blog.canpan.info/poepoesongs/index2_0.xml