
境節「流れ」[2022年07月19日(Tue)]
流れ 境節
ヨーロッパの教会で見た
シャガールの絵の ステンドグラス
人も木々も 建物も雲も
風さえ 浮き流れているようだ
シャガールも祖国を遠く離れて
流れ続け
浮かんでいたのか
十三さいの少女は
日本の敗戦で つみのように外地から
祖国に帰った
あなたは いつも浮かんでいる と友人が言う
地上から二センチ離(はな)れて
流れ あるいは
飛ばされていく
きみのまわりの風も
淡い色調で
地味にくらしているが
のびている草と共存していても
反射する空間が
自然であっても
まだ流れようとして
『十三さいの夏』(思潮社、2009年)より
◆境節(さかい せつ)は1932年生まれの人。詩集の題やこの詩にある「十三さい」の夏、敗戦をソウルで迎えた。「つみのように外地から/祖国に帰った」ものの、「その時の、十三さいの少女のままで」ソウルに立っているイメージが強い、と詩集あとがきに誌す。
足もとの大地を失った流亡の感覚は、映像や報道によって現在もまた難民の世紀であるとつぶさに知ることになった我々にとって、皮膚に貼りついた感覚として共有されるようになった。