
辻征夫「海」[2022年07月16日(Sat)]
海 辻征夫
海が
小さな手で
ぼくの
足にさわりにくる
風は
ぼくと岩との
くべつもつかず
ただいかにも風らしく
海から陸へ
吹いている
そしてぼく
ぼくのこころは
まだ発見されない
小さな無人島なんだ
じっと海を見ている
★1972年3月の「朝日小学生新聞」に載った詩だという。
谷川俊太郎編『辻征夫詩集』(岩波文庫、2015年)に拠った。
◆だれにも身の内に小さな無人島を持っているとしたなら、それを発見するのは自分ではない。
風に運ばれて波のはるか彼方からやって来る冒険者――彼が未知の「ぼく」の名誉ある発見者というわけだ。
むろん逆もある。
「ぼく」がたどり着いた島で出会う未知の存在、その内に自分と違う「こころ」が息づいていると知って始めて彼を「発見」したということができる。
自分について知っていることは大してなくて、他者を「発見」して始めて分かってくることの方が実はたくさんある――人が生きて行くとは、そんなことなんじゃないだろうか?