
谷川雁「雲よ」[2022年07月15日(Fri)]
横浜を流れる大岡川、弁天橋のたもとで。
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雲よ 谷川雁
雲がゆく
おれもゆく
アジアのうちにどこか
さびしくてにぎやかで
馬車も食堂も
景色も泥くさいが
ゆったりとしたところはないか
どっしりした男が
五六人
おおきな手をひろげて
話をする
そんなところはないか
雲よ
むろんおれは貧乏だが
いいじゃないか つれてゆけよ
松原新一・編
谷川雁詩文集『原点が存在する』(講談社文芸文庫、2009年)より
◆一つ所に留まって居てはならない、と思い込んでいるところが人間にはあるんじゃないか。
水さえあればどこにだって行ける船が、こんな風に係留されているのを眺めていると、そんな気がした。
岸につながれて暫しの骨休めのようだけれど、なに、このままだって、一向に構わないわけだ――旅の記憶を爪繰っていようと、そうでなかろうと。