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シンボルスカ「雲」[2022年06月12日(Sun)]

『文学の贈り物 東中欧文学アンソロジー』に収められたシンボルスカのもう一つの詩は「雲」という作品だ。


雲  ヴィスワヴァ・シンボルスカ


急がなくてはならないのは
雲の描写だ
一瞬の中に
その姿を次の形へと変えていく

それらの特色といえば
形といい、色あい、ポーズ、配列も変幻自在
決して同じ繰り返しはない

いかなる記憶という重荷も背負わされることなく
地上の諸々のごたごたに煩わされることもない

たとえ雲の中になにかの事件の証人がいたとしても
あっという間にいずこへともなく姿をくらましてしまう
雲と比較したら、人生というのはずっと地面に縛られているように思われる
いつまでも、そしていつまでも
雲は、遠くて何だか心もとない従姉妹のような存在
そしの下では石ころだって信頼に足る兄弟のように見えてくる

もし望むなら人は思った通りに生きてゆけばよい
そして最後になってそれぞれの人生を全うすればよい
人間という不思議な生き物も
雲にとってはどうでもいいもの
まったく無縁なこと

もう終わりを告げてしまった貴方(あなた)の人生
そしてまだ残されている私の人生の上を
あの時のように雲のパレードが流れてゆくこれ見よがしに
雲にはわれわれと生死を共にする義務なんてない
流れ去っていくだけ、姿を人に見せる必要なんてないのだから


小原雅俊・編『文学の贈り物 東中欧文学アンソロジー』(未知谷、2000年)より。


◆刻々に姿を変えて行く雲というものから説き起こし、三連目の前半までは凡庸と言ってよいほどの詩句が続く。

「記憶という重荷」「地上の諸々のごたごた」という風に、地面に縛りつけられた、人間という不自由でどうしようも無い生きものの姿が語られていく。

だが、そうした人生訓もこの詩の主眼ではない。
第四連の終わり二行「雲にとってはどうでもいいもの」――突き放された気分が歌われ、その理由は、最終連で語られる。

――逝ってしまった「貴方」、なのに、関知せずというように流れてゆく雲が「私」の悲しみを際立たせる――雲になったのでもなければ、空の星になったのでもない――遺された「私」に、見上げること以外、何ができよう。


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