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シンボルスカ「詩篇(祈り)」[2022年06月11日(Sat)]

◆『文学の贈り物 東中欧文学のアンソロジー』という本をめくっていたら、シンボルスカの詩が三篇載っていた。
「玉葱」という以前紹介したことのある詩の他に、冒頭を引いただけで終わっていた「詩篇(祈り)」という詩に再会した。
今回は全体を載せて置く。

ロシアのウクライナ侵攻が目の前に突きつけられた現在、鳥や蟻の足もとにも及ばない人間の滑稽な化かしあい、という指摘に学ばなければ、という気持ちになる。
シンボルスカの祖国ポーランドもまたロシア(ソ連)、ウクライナと地続きで辛酸をなめてきた土地柄だ。
歴史の酸いも甘いも溶かし込んだこうした詩を読めば、最近流行の「地政学」なる単語を操って高説をもてあそぶ「専門家」に対しては、間に「馬」の字を入れたら?と、からかいたくなる。

*******


詩篇(祈り) ヴィスワヴァ・シンボルスカ
             つかだみちこ・訳

人間のつくり出した国境とは
なんと疎漏なものであることか!
どれほど多くの雲がその上を罰せられもせず
とおりすぎてゆくことか
どれほど多くの砂漠から吹き飛ばされてきた
砂塵が国から国へとふりまかれていることか
どんなに多くの山の小石が他国の領土へと
転出していったことか

飛び去ってゆく鳥 またおろされている
遮断機の上に 羽を休めている鳥について
ここで私がいちいちあげつらわねばならないのか?
それがたとえ小さな雀であろうと――そして
その尾っぽが既に隣国の国境を越えてしまっていて
嘴はまだこっちの国の領土にあったとして
それにしても彼らはなんとバタバタと
落ちつきなく動きまわっていることか!

数えきれない程多くの昆虫が蠢いている
だがここではとりあえず蟻の話にだけ
とどめておくことにしよう
それが国境警備員の左と右のブーツの間を
行ったり来たりしていたとしても
彼らだつて″どこから?″とか″どこへ?″なんて
野暮な質問はしないだろう

大陸という大陸での
こんな無秩序なあらゆることに
くまなく目を注いでなるがよい
なぜといって これは対岸から密航してきた
十万葉もの水蝋樹(すいろうじゅ)の葉ではなかったか?
その向こう見ずな蛸の長い腕が聖なる水域を
侵さないとだれにいうことができるか?
だれに光を注ぐかということで星座の位置を
ずらすなんてことができるとでもいうのか?

ましてや霧を拡大するなどということを!
はてまた砂塵が所狭しと吹きすぎてゆく大草原を
半分にちょん切ってしまうことなんか!
そしてゆったりと分け隔てのない空気の波に乗って
響いてくる声たち
そしてたがいに呼びあい誘う甲高い叫びと
意味ありげなゴロゴロという音

ただ人間だけがエトランジェなんかつくっている
挙げ句の果ては魑魅魍魎の化かしあい


小原雅俊・編『文学の贈り物 東中欧文学アンソロジー』(未知谷、2000年)より。
(*土曜美術社出版販売の世界現代詩文庫にも、つかだみちこ訳で入っているが、そちらは二段組みなので、印象がすこし異なる。)

*なお「水蝋樹」は、図鑑では「イボタノキ」のことだというが、日本のそれと同じものを指すのか、またその木がどんなイメージを帯びているのかなど不案内である。



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